今の時代に増えてきた「墓じまい」について。
そもそも墓じまいとは?その特徴やメリット・デメリット
少子化・核家族化が進む中で、なかなか実家に帰れない・お墓参りに行けないという人は多いと思います。
この流れは現代においても進行中であり、将来的に実家にいる高齢の家族が亡くなったら、誰もお墓参りに行けなくなるような状況の家族が増えてきました。
そこで、家族が元気なうちに墓を片付けて、遺骨を別の場所に安置する方法が注目を集めています。
お墓を片付けること(解体・撤去すること)は「墓じまい」と呼ばれ、前向きに検討する人が多い反面、先祖代々引き継いできた墓を片付けることに対して反対の姿勢を崩さない人もいます。
しかし、今後日本で大きなベビーブームでも到来しない限り、日本の人口が減ることは間違いなく、墓じまいは近い将来、誰もが避けて通れない問題になるでしょう。
この記事では、墓じまいに関する詳しい情報について、特徴や時代背景に触れつつメリット・デメリットをご紹介します。
「墓じまい」は現代の新たな仏事?
今までの仏教観では、家族がどうやってお墓を守るのかについて論じることが一般的で、お墓は先祖代々・永遠に守るものとして考えられてきました。
しかし、お墓を守れていない・もしくは将来的に守れなくなる可能性がある世帯は増加傾向にあり、もはや墓じまいは現代の新たな仏事とも言えるような状況となっています。
なぜ墓じまいは必要なのか
多くの世帯で墓じまいを必要とする理由は、大きく分けて2つあります。
それは、家族がお墓参りに行けないこと・お墓の後継者がいないことです。
遠く離れた場所で子どもが働いている場合、どうしても実家に帰る時間が少なくなり、お墓参りもおざなりになりがちです。
また、将来的に実家の家族が子どもと一緒に暮らす場合、仕事のことを考えると、子どもの住んでいる地域に親が引越すのが現実的なため、お墓が遠くなってしまうおそれがあります。
子どもが独身・もしくはDINKSなどであれば、将来的に子孫がお墓を守っていくことは難しくなるでしょう。
家族の未来を見越した際、お墓をそのままにしておくと何のケアもできないおそれがある場合に、墓じまいという選択肢が選ばれます。
墓じまいはどのような流れで進むのか
墓じまいを具体的に進めていく場合、ある程度流れは決まっています。
具体的には、家族・親族の了承を取り付けた後、遺骨の移転先を決めて、所定の手続きを進めていく形になります。
以下に、かんたんな流れをご紹介します。
家族・親族会議を行う
お墓に関することは、家族だけでなく親族にも影響する話なので、できるだけ関係者全員で話をしておきましょう。
誰が遺骨を継承し、安置場所は今後どうなるのかなどを、丁寧に話し合います。
場合によっては、故人の兄弟姉妹が遺骨を引き継ぐ可能性もありますし、それなら自分が墓を引き継ぐと話す親族が出てくるかもしれません。
後々の親族トラブルを避けるため、お互いに異存がないかどうかを確認することが大切です。
移転方法・移転先について決める
墓じまいの後で遺骨をどうするかについては、いくつかの選択肢があります。
新しいお墓を建てたり、納骨堂を契約したり、あるいは他の安置方法を思いついたりするかもしれません。
こちらも、家族重視で考えるか、親族に配慮するかで、移転方法や移転先が決まります。
散骨や手元供養などの選択肢も考慮して、関係者全員が納得する方法を探りましょう。
役所での手続きとお墓の管理者への連絡
方針が決まったら、現在遺骨を安置しているお墓の管轄となる市区町村役場に行って、改葬許可申請書を手に入れます。
書式は各市区町村で多少異なりますが、以下のような内容を書き入れていきます。
- 死亡者の氏名/性別/本籍/住所/死亡年月日/火葬または埋葬の年月日/続柄
- 埋葬場所(住所)/改葬する場所(住所)/改修の理由
- 申請者の住所/氏名/電話番号
- 埋葬元と改葬先の住所/管理者の署名等/捺印
また、埋葬元からは埋葬証明書を、改葬先からは受入証明書をもらいます。
これらは、遺骨がきちんと埋葬されていたこと・新しい遺骨を受け入れる用意があることを、それぞれの管理人が証明してくれる書類です。
これらの書類が手に入ったら、改葬許可申請書・埋葬証明書・受入証明書を市区町村役場に提出し、改葬許可証を発行してもらいます。
閉眼供養を行い、新たな安置先に遺骨を運ぶ
お墓から遺骨を取り出す際には、お坊さんに閉眼供養を行ってもらいます。
御霊に一度お墓から離れていただき、新たな安置先で再び開眼供養を行います。
埋葬先に関しては、石材業者などに依頼して墓石の撤去をお願いするとともに、お墓を更地にします。
この時、埋葬元が業者を指定することもありますから、事前に確認しておきましょう。
遺骨は原則として、新しい納骨場所に安置するまでは自宅などで保管します。
墓じまいで押さえておきたいポイント
墓じまいは、単純にお墓を更地にするだけでなく、新しい遺骨の安置先を決める作業でもあります。
しかし、安置先は必ずしもお墓・納骨堂だけとは限りません。
もし、家族・親族ともに遺骨を守り続けることが難しいなら、このタイミングで散骨を専門業者に依頼してお願いするのもよいでしょう。
あるいは、手元供養を選ぶことで、自宅に遺骨を安置したり、ジュエリーを作ったりする方法もあります。
安置先を決め込まない方法であれば、先にあげたような面倒な手続きは少なくなります。
次のお墓・納骨堂をどうするかで頭を悩ませる前に、本当にそれは必要なことなのかどうか、ゼロベースで考えることをおすすめします。
墓じまいを行うメリット
墓じまいを済ませることで、家族にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。
メリットと感じる部分は各家族によって異なりますが、概ね以下のようなものがあげられます。
お墓の問題を自分の代で解消できる
先祖代々引き継いできたお墓に関する話は、時折家族・親族の間で深刻に考えられることがあります。
特に、地域によっては「ご先祖様に申し訳が立たない」という負の感情にさいなまれることも珍しくなく、何らかの形で前向きにお墓の問題を解決したいと考えている人は多いのです。
自分のせいでご先祖様や故人を無縁仏にしてしまうことは、当事者にとっては耐えられないことだろうと思います。
その意味で、責任を持って供養の方法を考えることは、精神的安定をもたらしてくれるはずです。
管理費などの費用を抑えられる
お墓を改葬する際、場所によっては管理費などの費用を安く抑えられます。
新たにお墓を建てる場合、どうしても百万単位の金額が発生してしまいますが、納骨堂を選ぶなら料金は比較的安くなります。
また、親族や本家のお墓に一緒に入れた場合は、そもそも管理費が発生しません。
お墓を守る家に対してお金を包むことはあるかもしれませんが、挨拶程度のもので済みますから、ランニングコストを気にする必要がなくなります。
負担の少ない埋葬方法が選べる
墓じまいで新しい改葬先を決める時、自宅の近所にある納骨堂を選べば、供養に時間も手間もかかりません。
また、永代供養墓への埋葬を決めれば、お墓との向き合い方そのものが変わり、供養にかかる負担も少なくなります。
墓じまいをきっかけに、自分たちが受け持つ部分を簡略化できる埋葬方法が選べるのは、精神的にも肉体的にも大きなメリットになります。
将来にわたって家族の負担を減らしたいと考えている人にとって、墓じまいは有効な選択肢の一つです。
墓じまいをすることで生じるデメリット
全ての家庭で起こる問題ではありませんが、墓じまいを進める中で、トラブルが起こるリスクも存在しています。
具体的には、以下のようなデメリットが考えられるため、墓じまいをするなら慎重に話を進めることを意識しましょう。
菩提寺から離檀料を請求されるリスクがある
菩提寺の敷地を借りてお墓を建立した場合、墓じまいにあたって菩提寺から高い離檀料を請求されるおそれがあります。
特に、長い間お世話になってきた菩提寺との関係を切る場合、思いのほか揉めてしまうかもしれません。
住職の中には、墓じまいをするなら離檀料を支払わない限りは認めないと話すところもあり、埋葬証明書を発行してくれないと墓じまいが進みません。
このようなトラブルを避けるためには、できるだけ早い段階から今後のことを相談して、離檀する時期についても話し合っておくことが大切です。
檀家契約を結ぶ際に、離檀料に関する取り決めを定めている場合を除き、基本的に離檀料を支払うかどうかは任意です。
御布施と同じ扱いになりますから、強引に話を進められるおそれがあるなら、弁護士や行政書士などに相談することも想定しておきましょう。
親族が納得せず、墓じまいが進まない可能性がある
墓じまいは、直接の家族だけの問題ではなく、親族間全体の問題になります。
特に親族関係は、家族のあずかり知らないところまで考えないと、後々大きなトラブルに発展するかもしれません。
自分たちが疎遠になっている相手でも、相手はよく故人のことを覚えていて、人知れず墓参りに来ている可能性があります。
葬儀の際に保管しておいた芳名帳を確認して、気になる人には一度事前に連絡を入れておくとよいでしょう。
新しい墓を建てる場合、大きな費用が発生するおそれがある
墓じまいを行った後で、新しい墓を建てることを考えている場合、片付けと建立で二重の費用が発生します。
撤去にも費用がかかり、その上で新しいお墓を建てる費用もねん出することになりますから、大きな出費を覚悟しなければなりません。
納骨堂や樹木葬のような選択肢を選べば、ある程度費用を抑えることはできるものの、親族の理解が必要な場合もあります。
今後の供養を効率化するか、お墓にかかる費用を安くするかは悩むところですが、当面の間はお墓だけを片付けて、手元供養で時期を待つ方法もあります。
できるだけ、負担を減らせるよう柔軟に考えたいところです。
この記事のまとめ
墓じまいは、これからの日本において避けては通れない問題で、将来的に仏事的な行事の一つとして広く知れ渡ることになるでしょう。
人々の暮らしは日々移り変わっていくものですから、自分たちにとってより身近な環境で供養を行いたいと考える流れは、今後も止まらないものと思われます。
重要なことは、家族・親族・菩提寺など、お墓に関係する人全てに配慮したプランを考えることです。
相談を重ねた上で、後悔のない判断ができるよう、関係者全員と綿密なコミュニケーションを図りましょう。