よく聞く「お彼岸」の基本をおさらい。
基本マナーとお墓参りの日程・服装・御供えなど
お墓参りやお寺参りのシーズンとして知られる「お彼岸」。
日本における毎年の恒例行事として覚えている人も多いと思いますが、実際のところ何をするのか知っている人は少数派だったりします。
お彼岸は、確かに仏事の一つではあるのですが、お盆に比べるとそこまで重要性の高いイベントではありません。
しかし、法要を行う家もあるため、参列する場合は基本的な知識・マナーを覚えておくと恥をかかずに済むでしょう。
今回は、お彼岸の基本・マナーとなる知識に加え、具体的なお墓参りの日程・服装・お供えなどについてご紹介します。
そもそもお彼岸って、お墓参りする必要あった?
お彼岸のことを知っている人も知らない人も、お彼岸はお墓参りをする習慣ではないと考えている人は意外と多いようです。
この認識は仏教的に考えると誤りではないものの、祖霊崇拝を大切にする日本では、お墓参り・お寺参りと密接に結びついている行事の一つとなっています。
お彼岸は、春と秋に2回やって来る
お彼岸は、春と秋の2回やってきます。
それぞれ「春のお彼岸」「秋のお彼岸」と呼ばれています。
しかしながら、春と秋でお墓参りの方法が違うわけではありませんし、両方の時期にお墓参りをする必要もありません。
春分の日を中日とした7日間・秋分の日を中日とした7日間が該当し、前後3日間という形で覚えておくと間違えません。
また、日本独特の仏教行事であり、一説では聖徳太子の時代から始まったと言われ、江戸時代から年中行事として定着したという背景があります。
お彼岸も立派な仏事だが、家庭ではあまり重視されないことも多い
日本に広く定着しているお彼岸の文化ですが、家庭の中で重視されることは少ない傾向にあります。
これは、お彼岸が生まれた背景・意味を考えると分かりやすいかもしれません。
お彼岸の正式名称は「彼岸会(ひがんえ)」で、本来は悟りを開くため仏道に精進する行事でした。
7日間という期間の中で六波羅蜜(ろくはらみつ)を修行して、中日は先祖供養に充てるという、非常にストイックなものだったのです。
六波羅蜜とは、以下の6つの要素で構成されています。
以下に、概要をご紹介します。
布施
「ふせ」と呼び、他人にお金・衣類を施したり、仏の教えを周囲に説いたりすることを指します。
現代では、お坊さんへの謝礼の意味もありますが、本来はもっと意味の広い言葉です。
持戒
「じかい」と呼び、仏教における戒律を守ることを指します。
仏教徒として守るべき決まりを守り、お坊さんの場合は修行中の集団生活において規則を守ることも含まれます。
忍辱
「にんにく」と呼び、心を安らかにした状態を保つべく耐え忍ぶことです。
怒り・イライラで心のボルテージを上げないようにする、逆に落ち込んで気持ちがふさぎ込まないようにするなど、心をできるだけ平安にする修行です。
ちなみに、食物のニンニクは精力がつく食べ物として仏教では禁じられていましたが、厳しい修行を耐え忍ぶ(忍辱)ため、当時の僧侶がこっそり食べたことからその名が付いたとも言われています。
精進
「しょうじん」と呼び、本来の意味は「努力」のことを表し、悟りの境地に辿り着くために雑念を葬って、一心に仏道修行をすることを精進と呼んでいます。
この精進という言葉は、今の日本のスポーツ界・ビジネス社会などでもよく使われる言葉です。
雑念を捨て去るというところから、スポーツの大会に向けてや、ビジネスの不祥事や売上回復などに向けて、精進するといった言葉が今も使われます。
禅定
「ぜんじょう」と呼び、心を静め定めることを意味します。
語感から座禅をイメージしがちですが、仏教の修行の中で必ずしも座禅を意味するものではなく、浄土系の念仏(南無阿弥陀仏)や日蓮宗のお題目(南無妙法蓮華経)なども該当します。
般若
「はんにゃ」と呼び、深い知恵を意味します。
修行を行う根拠となるもので、エッセンスがまとめられた般若心経は有名です。
お墓参りよりも合同法要会の方が主流
先に述べた通り、基本的に修行の要素が強く出ている仏事のため、お墓参りもその一環という考え方になります。
また、この時期にイベントとして行われる「合同法要会」の方が、どちらかというと主流です。
合同法要会とは、寺院に僧侶・檀家などが集まって法要を行うことです。
霊園で主催されることもあり、地域によっては多くの人が参加します。
場合によっては、住職が檀家の自宅に足を運び、個別に法要を行う場合があります。
後述しますが、初彼岸の場合に行われることが多いようです。
お墓参りする際の服装・お供えについて
お彼岸は仏事ではあるものの、法要としてはそれほど重要視されないこともあり、服装・お供えについても比較的自由度は高い傾向にあります。
ただし、親族も参加するようであれば最低限の礼儀は必要になってきますから、覚えておくべきことは覚えておきましょう。
法要として参加するなら、七回忌まではきちんとする
仏教の法要全般に言えることですが、法要に参加するなら、原則七回忌までは喪服・準喪服の着用が基本となります。
ただ、現代ではそこまで堅苦しく考える家庭は少ないため、地味な服装を想定しておけば問題ないでしょう。
自宅でお彼岸法要を行う場合、さすがにパステルカラーの衣類は避けなければなりませんが、男性なら落ち着いた色のシャツ・パンツでコーディネートし、女性も似たような色合いのブラウス・スカート・ワンピースを選んでおけば無難です。
また、合同法要会に参加する場合、案内で服装が定められているなら、その内容に従います。
墓参りのタイミングとして考えるなら、特に決まりはない
特にお坊さんを呼ぶことなく、毎年恒例の墓参りのタイミングとしてお彼岸を捉えているなら、服装や手順などに明確な決まりはありません。
毎年のお盆と同じように、お墓に足を運んで感謝の祈りを捧げ、お供え物を捧げます。
しいて言えば、お彼岸は個々人の修行の時期でもあるため、家族全員で墓参りできることが理想です。
春分の日・秋分の日は祝日のため、たまに家族水入らずで墓参りに行く時間としてスケジュールを確保しておくのもよいでしょう。
お彼岸といえば「おはぎ・ぼたもち」だが、現代ではお供え物は自由
お彼岸のお供え物といえば、おはぎ・ぼたもちが有名で、時期になるとスーパーのそうざいコーナーでもこぞって並びます。
これにはきちんとした由来があり、ぼたもちは「牡丹(ぼたん)」・おはぎは「萩(はぎ)」と、それぞれの季節の花を模して作られたお菓子なのです。
どちらも「もち米」と「餡子」を使って作られたものですが、ぼたもちはこしあんを、おはぎはつぶあんを使ってこしらえるのが一般的です。
今では混同されている地域がほとんどですが、厳密にはこのような違いがあります。
昔は米も砂糖も貴重品だったため、ご先祖様への供養としては非常に重宝されたお菓子でした。
しかし、現代では故人の好物を供える習慣が一般化しているため、必ずしもおはぎやぼたもちを供える必要はありません。
ちなみに、おはぎ・ぼたもちという名称は、それぞれの季節の花にちなんだものですが、夏・冬に作られた場合の異名もあります。
それぞれ、夏は「夜船(よふね)」・冬は「北窓(きたまど)」という呼び名があり、同じお菓子なのになかなか面白い歴史があります。
お彼岸独特のマナーや注意点
数ある仏事の中でも、お彼岸は比較的決まり事が少ないイベントの一つです。
しかし、お彼岸独特のマナーもあることから、念のため覚えておきましょう。
初彼岸は法要として重要な地域もある
故人が亡くなってから初めて迎えるお盆のように、故人が亡くなってから初めて迎えるお彼岸を「初彼岸」と言います。
厳密には、四十九日を過ぎた後のお彼岸のことを指します。
一般的には、他の法要と同様にお墓参り・お供えをするだけというケースが多いのですが、地域によっては初盆同様に重視するところもあります。
友人・知人は招かないにせよ、遠方から親戚がやって来る家も少なくないため、その場合は丁寧な対応が必要です。
初彼岸法要を自宅で行うなら、お坊さんへのお布施は30,000円程度を想定しておきましょう。
合同法要会の場合は、3,000~10,000円程度といったところです。
また、初彼岸に参加する立場でお供え物を持って行く場合は、線香がもっとも無難です。
おはぎ・ぼたもちは招く側が準備していて、果物なども用意されていることが多いため、かえって負担をかけないよう悪くならないものを選ぶのがよいでしょう。
お供えする花の種類に注意する
お彼岸の時期は、お供えすべきではない花の種類を覚えておくと役立ちます。
秋のお彼岸と言えば、9月中ごろから開花する「ヒガンバナ」が有名ですが、お墓やお仏壇にお供えするお花ではありません。
そもそも、ヒガンバナの球根には猛毒があり、お墓や田んぼの近くに昔から植えられていたのは、獣害を防ぐ目的があったからです。
お彼岸のために植えられた花ではありませんから、その点に注意が必要です。
その他、バラ・アザミのようにとげがある花は「ご先祖様に傷をつける」ものと捉えられ、避けるものとして考えられています。
つるのある花も「成仏を妨げるもの」として忌み嫌う傾向にあるようです。
香典を持参する・受け取る場合もある
初彼岸を重要な法要として考える家では、香典を持参したり受け取ったりする場合があります。
お供え物の代わりとして用意する人もいるようです。
金額の相場は、概ね3,000~5,000円が目安となります。
また、表書きについては、すでに四十九日を過ぎているので「御供」となります。
この記事のまとめ
お彼岸の基本的なマナーや日程・服装・お供えなどについて、主なものを紹介してきました。
お彼岸は、日本独特の仏教文化の一つではあるものの、現代では「お彼岸だから何かする」ということが少なくなってきている傾向にあります。
しかし、故人のことを大切に思う気持ちは、いつ・誰が持ち合わせていても全く問題のないことですから、折々で感謝の気持ちを伝えるタイミングの一つとして覚えておきたい仏事です。
お墓に足を運ぶのはもちろん、合同法要会への参加・お仏壇へのお供えなど、普段よりも丁寧にお祈りを捧げるだけで、きっとご先祖様も嬉しいはずです。
一部お彼岸ならではの注意点もありますが、それだけ気を付けていれば、迷うことは少ないでしょう。