似てるようで実は意味や役割が違う?
霊柩車・寝台車・搬送車の違いと役割や手配時の注意点

  • 2019.10.08
  • 2020.04.17

葬儀

家族が故人となってしまったら、残念ながら身体を動かすことはもうできません。
そのため、自宅へと遺体を搬送する場合、車を使って遺体を運ぶことになります。

このとき、多くの方は「霊柩車」を使って遺体を自宅まで運ぶイメージでいると思いますが、そのイメージは正しくありません。
実は、遺体を運ぶための車は、霊柩車だけではないのです。

今回は、霊柩車と本質的には同じ役割だが、厳密に言うと意味合いが違う、霊柩車・寝台車・搬送車の違いと役割、手配する時の注意点についてご紹介します。

霊柩車

まず、霊柩車と言うのは、お通夜など葬儀を行った場所から、火葬場に故人を連れていくための車です。
そのため、それ以外の車は霊柩車とは言いません。

しかしながら、今の一般的な知識だと、つい故人を乗せる車=霊柩車と思う人が多いです。
なぜ自宅への搬送時に使われる車なども霊柩車と勘違いしてしまうのかというと、実はこれには昔の習慣が関係しています。

斎場で葬儀全般を行うようになったのは、比較的最近のこと

意外かもしれませんが、私たち日本人が各地の斎場で葬儀を全般的に行うようになったのは、比較的最近のことでした。
葬祭業者が本格的に出現したのは明治時代に入ってからで、それまでは行政権力によって「士農工商に基づいた身分別の葬儀」が執り行われていました。

身分の違いを代表するものが喪服・衣装・持ち物などで、武士や町人・農民それぞれの身分で違いがあったとされます。
また、現代では黒の略礼服を着ますが、この当時は白麻の上下だった言われています。

現代では、斎場でお通夜・告別式を終えた後、遺体は霊柩車に乗って火葬場へ、という流れが一般的です。
これに対して江戸時代では、お通夜を自宅で一晩中行った後、遺族・参列者が揃って並び、自宅からお寺まで列をなして向かっていました。

これを「葬列」と呼び、皆々で故人をあの世へと連れて行ったのです。
その後、お坊さんが引導を渡し(儀式を行い)、読経をして遺体をお寺で引き取るという流れになります。

遺体は棺を乗せた輿(こし)で担がれたようで、そのときの形状が豪華な霊柩車のデザインに反映されています。
霊柩車は、そんな葬列の名残の一つで、表立って長い葬列を組めない現代において、故人をあの世へと連れていく役割を担っているのです。

霊柩車の形は独特で分かりやすいが、現代風にアレンジされているものもある

多くの人がイメージする霊柩車は、まるで宮殿が後ろに積まれているかのような、非常に豪華な造りの車でしょう。
これは「宮型霊柩車」と呼ばれ、専門職人が金仏壇のような装飾を施して、遺体を安置するスペースを作っていました。

白木・漆などが素材となっており、一目見ただけで霊柩車だと分かるため、それを見た多くのドライバー・歩行者などが親指を隠したものと思われます。
そのデザインから、主に仏式・神式での葬儀に用いられてきましたが、宗教・葬儀の多様化に伴い、宮型霊柩車のニーズは少なくなってきました。

価値観の変容から新たに生まれたのが「洋型霊柩車」で、大型ステーションワゴン・高級乗用車を一部改造し、まるでリムジンのような長いスペースを作って遺体を安置できるようにしています。

多少の装飾はあるものの、一目見て霊柩車だと判断できる要素は少なく、アクセサリー部分も取り外しが可能なように設計されています。

どのデザインでも、乗用車には高級サルーンなどが用いられています。
ただし、後述しますがバスやバンなどを霊柩車として改造しているものもあり、バリエーションは豊富です。

地域性を感じる霊柩車も

ちょっと変わったところでは、バス型の霊柩車があります。
こちらは北海道のような寒冷地で見られるもので、自宅葬が難しい環境において、大規模な会場を選んで葬儀を行う場合に用いられます。

他の霊柩車との違いは、遺体だけでなく遺族・僧侶・葬儀参列者などを一緒に乗せて走れる形になっていることです。

中・大型バスがベースになっていて、トランクルームに棺がすっぽり入るような造りになっているものもあれば、後部に棺が入るように改造されているものもあります。

遺体と一緒にバスに乗るというのは、なかなかシュールに感じられるかもしれませんが、見方を変えれば非常に合理的です。

寝台車と搬送車について

霊柩車のイメージは分かりやすいですが、寝台車・搬送車については、実際のところ葬式用語とも言い切れない部分があります。
寝台車などと聞くと、鉄道に詳しい方ならブルートレインを思い出すのではないでしょうか。

この二つの用語については、葬儀の現場では霊柩車と比較すると厳密に分類されておらず、ほぼ同じ意味合いで考えられています。
以下に、どのような場面で使われるのかについてお伝えします。

寝台車・搬送車は「バン型」をしている

寝台車・搬送車も、基本的には遺体を運ぶための車です。
改造内容も簡素なもので、後部座席を半分ほど撤去し、遺体を乗せるための台が用意されている程度です。

大きさとしては、同乗者も想定していることから、バン型のものが多く見られます。
後部座席を半分ほど撤去して、ストレッチャー対応の遺体を乗せている台が設置されています。

寝台車・搬送車は、外から見る限りは一般車両と違いが分かりません。

黒塗りなど、暗い色合いとなっているのは霊柩車と共通していますが、そもそも病院などへの乗り入れを想定しているため、飾り付けなどは邪魔になるので装備されていないのです。

よって、通常のバンと比較してもほとんど見分けがつかず、しいて言えば後部座席部分のプライバシーガラスが濃黒に見えるという程度でしょう。

ちなみに斎場や火葬場、自宅へ故人を送る際に多用されるこのバン型霊柩車は、遺体搬送車や寝台車とも呼ばれています。

寝台車・搬送車は、どこにでも遺体を送ってくれる車

霊柩車が、原則として告別式後に火葬場まで移動する際に使われるのに対し、搬送車や寝台車は「とにかく【遺体・横になった人】を移動させるのに使うもの」という認識です。

言い換えれば、寝たきりの人や病人・怪我人まで、実に様々な人を搬送するために使われるものと説明できます。

また、霊柩車に乗せるのは故人の遺体だけですが、寝台車には付添人を乗せるスペースも用意されています。
色々な用途に使われるため、業者としてもサービスを受ける側としても、都合のよい車と言えるでしょう。

葬儀の場面では、病院から自宅への移動や、自宅から斎場までの移動などに用いられます。

ちなみに、宮型霊柩車のように「指定されたデザインの霊柩車でなければ遺体を火葬場に運搬してはいけない」という法律はありませんから、希望すれば霊柩車代わりに寝台車で火葬場につけることも不可能ではありません。

手配する場合は搬送だけをお願いすることもある

故人の葬儀を取り仕切る業者をすでに決めている場合はさておき、突然のことでどうすればよいか途方に暮れてしまうケースもあるでしょう。

そのような場合、病院などであっせんしている業者を選べますが、いきなり詳しく分からない業者に葬儀を頼むのは、精神的に抵抗があるという人も少なくありません。

このような場合、葬儀自体を行う業者の選定はいったん保留し、とりあえず搬送だけを頼むことができます。
そのような場合は、寝台車・搬送車がやって来て、自宅まで遺体を運んでくれるという流れになります。

急な状況ですから、搬送費用を吟味して業者を選べる余裕はないかもしれません。
しかし、それでも葬儀に関する全てを依頼するよりは安いですから、緊急時に備えて覚えておきましょう。

各車両の手配に関する注意点

霊柩車・寝台車・搬送車、3種類の違いについて説明してきたところで、各車両の手配に関する注意点についても触れておきましょう。
少し気にしておくだけで、思わぬ出費を防ぐことができるため、法的な部分も含めて頭に入れておくとよいでしょう。

緑ナンバーの有無について

霊柩車など、営業目的で遺体を搬送するための車は、その多くが緑ナンバーです。
また、法律上お金を受け取って遺体を搬送する場合、どのような車でも霊柩車同様の扱いとなり、緑ナンバーが必要です。

私たちの側がどうしてその点に注意すべきなのかというと、もちろん罰を受けるからではなく、費用が発生するかどうかという点に関わってくるからです。

業者が一般的な白ナンバーの車で搬送した場合、そこに費用を発生させてはいけないというルールがあるため、請求書等に搬送料等の記述がある場合、内訳を確認しておきたいところです。

ただし、そういった指摘を受けることを想定して、多くの業者では緑ナンバーの車を配置するはずですから、ほとんどの場合は問題にならないでしょう。

搬送料金はタクシーより割高

遺体を霊柩車に乗せる場合はともかく、病院から自宅に搬送する段階では、それほど料金はかからないものと考えている人は多いでしょう。
しかし、タクシーと比較して、搬送料金は初期費用が高めに設定されています。

各社ごとに金額の基準は違いますが、同じ距離を走ったとき、概ねタクシーの10倍程度の料金がかかります。
だからと言って、タクシーに遺体を乗せるわけにはいきませんから、念の為に地域の業者の相場観は押さえておきましょう。

宮型をあえて選ぶ必要はない

霊柩車は、仏式の葬儀だから霊柩車は宮型でなければならない、という縛りはありません。
予算・環境に応じて自由に選んで構いません。

事実、日本では宮型の霊柩車はどんどん数が減ってきており、海外で見つかっているという話も聞かれます。
モンゴルでは日本の霊柩車が輸入され、死者を盛大に弔うため、あるいはお寺の代わりとして使われています。

日本で流行らなくなったものが、海外で再評価されることは珍しくありません。
ひょっとしたら、海外で改良された宮型霊柩車が、再び新しい形で日本に輸入される日がやって来るのかもしれませんね。

この記事のまとめ

以上、霊柩車・寝台車・搬送車の違いや役割、手配する際の注意点などについてご紹介してきました。
原則として、霊柩車とそれ以外という枠組みで押さえておけば、それほど迷わず手配できるでしょう。

地域性や葬儀の規模によっても、霊柩車などに選ぶ車は変わってきます。
業者側でどのような車を用意しているのかを教えてもらい、価格をしっかり確認してから選びましょう。

  • 公開日:2019.10.08
  • 更新日:2020.04.17

テーマ:葬儀

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