法務局での遺言書保管制度と公正証書遺言の違い。
それぞれのメリットやデメリットについてを徹底解説
法務局で遺言書が保管できる新しい制度が始まったことで、自筆証書遺言を選択する遺言者が増えるものと予想されます。しかし、似たような仕組みを持つ公正証書遺言も、相続トラブルを防止する意味で長らく利用されてきました。
遺言書の保管制度「自筆証書遺言保管制度」は、安全性の高い制度ではありますが、運用されてからまだ日が浅く、利用すべきかどうか悩んでいる人も多いでしょう。
そこで、この記事では、遺言書の作成・保管について安全性が高い公正証書遺言と、自筆証書遺言保管制度の違いについて、それぞれのメリット・デメリットと合わせてお伝えします。
自筆証書遺言保管制度が持つメリット・デメリット
まずは、自筆証書遺言保管制度を利用した場合のメリット・デメリットについてご紹介します。
自宅で遺言書を保管するのに比べると、保管に関する安全度や簡便さの面でメリットは大きいものの、遺言書本来の目的である「法的効力があってトラブルを抑止できる遺言書」を作成する点では課題が残ります。
法務局が自分の遺言書を保管してくれる
自筆証書遺言の最大の問題点は、作成した遺言を自宅等で保管しなければならない点です。
長い年月の中で、自分がどこにしまったのかを忘れてしまう場合もあれば、家族の意向により改ざんされてしまう場合もあり、遺言書を安全な場所で保管することが難しい部分がありました。
しかし、保管制度を利用すれば、法務局に自分の遺言書を預けられるため、どこに預けたのかが一目瞭然です。
引越しの際に間違って処分してしまうこともありませんし、どこかに預けたまま行方不明になるおそれもありません。
検認がいらず、紛失や改ざんなどを避けられる
自筆証書遺言は、家庭裁判所で検認の手続きを受けなければ、遺言としての役割を果たせません。検認には月単位の時間がかかり、それまで遺族は預貯金の名義変更など必要な手続きができない状態です。
そもそも検認は、相続人に対して遺言の存在・内容を知らせ、遺言書の形式・加除訂正の状態・日付・署名など、検認の日現在における遺言書の内容を明確にするために行われます。
これは、要するに遺言書の偽造を防止するための行為なのですが、その間は相続に関することがストップしてしまいます。
保管制度を利用すれば、預ける段階で検認は不要となりますから、死後すぐに遺産相続の手続きを進められます。もちろん、法務局で遺言書の原本が保管されていますから、保管中の紛失・改ざんも防げます。
専門家による細かい内容のチェックはない
保管制度を利用した場合、検認が不要となるのは大きなメリットですが、検認は内容のチェックを行う仕組みではなく、あくまでも形式のチェックを行う仕組みに過ぎません。
そのため、遺言書の本文に重大な過失があったり、内容があいまいだったりした場合、効力を疑われてしまうおそれもあります。
代表的な例として、一部の相続人に多くの遺産を相続させること・愛人や子供の認知に関することなどがあげられます。
本人が表現を工夫していない・誤解のないよう文章を構成できていない場合は、遺族感情を逆なでするような結果につながるかもしれません。
このようなことを防ぐには、やはり第三者に相談しながら遺言書を書いた方が賢明です。保管制度を利用するにせよ、中身については家族の将来を考えたものに仕上げたいところです。
公正証書遺言が持つメリット・デメリット
続いては、公正証書遺言を作成するメリット・デメリットについてお伝えします。
公証人が自分の意志を確認しながら遺言書を作成してくれる点と、その分だけ作成時に手間と料金が発生する点を比較して、どちらを自分が優先するかで答えが変わってくるでしょう。
法的効力のある遺言書を作成してもらえる
自筆証書遺言は、遺言書の形式や文章構成などの基礎知識がなければ、法的効力のある遺言書を作成できません。
そのため、遺言に関する知識に乏しい人が書いた場合、遺言を開封してから不備が発見され、結果的にせっかく書いた内容が無効になってしまうおそれがあります。
しかし、公的証書遺言を選んでおけば、検察官などを経験した法律のプロが、公証人として正しい形式での遺言書の作成に協力してくれます。
そのため、保管制度同様に検認を必要とせず、作成後はそのまま遺言書の保管を依頼できます。
また、公的証書遺言を選んだ場合、遺言書の原本は公証役場で保管されます。
よって、自宅ではなく公的機関に保管を依頼する点で、保管制度と同様のメリットが享受できます。
確実に効力が発生する遺言書の作成を考えていて、自分の法律や遺言書に対する知識が乏しいことを自覚している人は、公正証書遺言を選んだ方が安心できるでしょう。
公証役場に直接足を運べない場合でも作成できる
原則として、公正証書遺言は公証役場で作成することになります。
しかし、遺言者が病気・ケガなどの事情で外出できない場合、出張料を支払えば公証人を呼び寄せて遺言書を作成できます。
保管制度は、あくまでも遺言者本人が法務局まで出向く必要があることから、このような柔軟な対応はできません。
また、代理人に遺言書を預け、本人の代わりに保管申請をすることもできません。
よって、何らかの事情があって遺言書を法務局まで預けにいけない人は、公正証書遺言を利用した方が便利です。
ただし、公証人には職務執行区域というものがあり、いわゆる管轄外の場所で仕事をすることはできません。
例えば、群馬県の病院で静養している人が、東京都の公証人に出張依頼をすることはできないため、自分がいる場所の管轄下でやり取りすることに注意が必要です。
遺産の額に応じて費用が高くなり、時間的な手間も発生する
公正証書遺言を作成する場合、所定の手数料が発生します。
日本公証人連合会によると、遺言の目的たる財産の価額(相続させる遺産の価値)に応じて、以下のような手数料が定められています。
- 100万円以下:5,000円
- 100万円~200万円:7,000円
- 200万円~500万円:11,000円
- 500万円~1,000万円:17,000円
- 1,000万円~3,000万円:23,000円
- 3,000万円~5,000万円:29,000円
- 5,000万円~1億円:43,000円
- 1億円~3億円:43,000円に超過額5,000万円までごとに13,000円を加算した額
- 3億円~10億円:95,000円に超過額5,000万円までごとに11,000円を加算した額
- 10億円~:249,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額
また、公正証書遺言を作成する際には、遺言者と公証人が打ち合わせを行う時間を設けなければなりません。さらに、証人を2名用意しなければならず、紹介してもらう場合は別途料金が発生します。
保管制度に比べると、費用はかなり膨らむことが予想されますし、手続きに時間もかかることを覚悟しなければならないでしょう。
それぞれを比較した際に差が生じる部分とは?
自筆証書遺言保管制度と公正証書遺言について、それぞれのメリット・デメリットに触れてきました。ここからは、それぞれを比較した際に、大きな差が生じる部分についてお伝えします。
費用の面では保管制度に分がある
遺書の作成および保管の費用については、自筆証書遺言保管制度に分があります。
保管の申請にかかる手数料は1通につき3,900円で、閲覧に関してはモニターなら1,400円・原本なら1,700円となっています。
これに対して公正証書遺言では、そもそも作成の段階で、最低でも手数料が5,000円発生します。相続させる資産の額によって、金額はどんどん大きくなっていきますし、証人を頼んだ場合も金額が発生します。
よって、少しでも遺言に関する費用を抑えたいなら、保管制度を選んだ方が安く済ませられるでしょう。
遺言の難易度に応じて添削サービスなどを選べば、公的証書遺言に頼らなくても、必要十分な内容で遺言書をまとめられるはずです。
融通の面では公正証書遺言に分がある
遺言書を作成・保管してもらおうと思っても、保管制度を利用する場合、自分の足を使って法務局に行かなければなりません。
その点、公正証書遺言を選べば、公証人を自宅・病院・施設などに呼んで、口述した内容をまとめてもらうことができます。
出張料に関しても、日当と交通費を支払う必要があるものの、日当に関しては4時間以内なら10,000円・それを超えると20,000円といったように、そこまで極端に高い金額ではありません。
これらの点を考慮すると、手続きの融通の面においては、公正証書遺言に分があるものと考えてよいでしょう。
紛争を防止する面ではどうか
保管に関する点で言えば、自筆証書遺言保管制度も公正証書遺言も、公的機関に遺言書の保管を依頼できます。しかし、その保管された遺言書の出来に関しては、チェック機構の優劣が存在していると言わざるを得ません。
自筆証書遺言保管制度では、確かに預けた後は検認が不要になるものの、あくまでも外形・自署確認・本人確認といった形式的な内容の確認だけが行われるに過ぎません。
結果的に、具体的な法的効力を満たしていない・遺言書の解釈が複数発生するようなケースになってしまうと、せっかく保管した遺言書が無効になってしまうおそれがあります。
これに対して公正証書遺言では、本人の意志を確認した上で、打ち合わせをしながら遺言書を作成できます。
証人も立会しており、その後の証言も得られやすいことから、総合的に相続人同士の紛争を防止する効果は高いと言えるでしょう。
この記事のまとめ
以上、自筆証書遺言保管制度と公正証書遺言の違いについて、それぞれのメリット・デメリットも含めてお伝えしてきました。
保管制度は、一見すると非常に便利なサービスに思えますが、遺言書そのものの出来を保証してくれるわけではないので、使える人を選ぶ部分が少なからず存在しています。
ただ、安価に使用できるため、ある程度遺言に関する知識がある人にとっては有効活用できるサービスと言えます。
公正証書遺言は、手間と料金はかかりますが、その分丁寧に遺言書を仕上げることができ、作成後の相続トラブルを未然に防ぐ意味で有効です。将来的にトラブルが起こる可能性が高い状況であれば、遺言書に投資する価値は十分あるはずです。
いずれを選ぶにせよ、最終的な目的は、自分亡き後の家族の幸せです。後悔のないよう、満足のいく形で遺言書を作成できるよう、十分検討した上で決めましょう。