改めて「遺言書」を基礎からおさらい。
遺言書とは何で、どんな効力があり何ができるのか

  • 2021.08.30

相続・遺言

ドラマなどでよく出てくる遺言書は、家族間の確執や肉親同士の争いを描くための材料として描写されることが多いものです。
しかし、実際のところ、多くの家庭で遺言書は故人の遺志を遺族に伝える大切なものとして扱われます。

大事な家族・子供たちに遺産が滞りなく行き渡るよう、遺言書は法的な効力が保証されています。
その代わり、所定の書式で記載しなければならないなどのルールが定められていますが、あらかじめ理解していればそれほど難しいものではありません。

この記事では、名前だけは多くの人が知っている「遺言書」について、具体的にはどのようなものなのか・どんな効力があって何ができるのか、かんたんにまとめています。
これから遺言書を準備しようと思っている人・遺言書について概要を知りたい人は、ぜひお読みください。

遺言書は、故人が遺族にあてて贈る「最後の意志」

遺言書をドラマチックに表現すると、故人が遺族にあてて贈る「最後の意志」と言えます。
自分の最期を見越して、愛する者に何を残せるかを記すという、人生をしめくくるにあたっては大変重要な書面です。

具体的な内容としては、遺産に関する実務的なものが多数を占めており、それだけに法的な効力を発揮させるにはいくつかのルールがあります。
故人の一方的な意思を保証するものではなく、あくまでも法にのっとった内容だけが認められるため、遺言書を書く場合はその点に注意が必要です。

遺産相続に関することがほとんど

遺言書に求められている内容は、そのほとんどが遺産相続に関することです。
遺産相続は、何のルールも設けないまま行うと、家族間でもめる要素が非常に多いため、相続人の間で問題になることを取り決めるケースが多く見られます。

遺言書は、遺産分割協議に優先して効力を発揮するため、法律で定められた相続割合よりも優先されます。
一部例外もありますが、遺言書があれば原則として故人の遺志が反映されるため、遺産相続の必要がある家庭では必ず用意しておきたい文書と言えるでしょう。

法的な効力を持たせるには、所定の方法で作成・管理する必要がある

遺言書に法的な効力を持たせるためには、所定の方法で作成した後、開封せずに管理しておく必要があります。
具体的には、主に以下の3つの方法のいずれかを選び、遺言書の作成・保管を行わなければなりません。

自筆証書遺言

故人自らが所定の書式に従って書き記す遺言のことです。
特別なインクなどは必要なく、紙に自筆で内容を記し捺印すれば、かんたんに作成できる遺言方法です。

実際、遺言書で最も多く用いられる方法ですが、自分以外に確認できる人がいないことがデメリットになります。
例えば、開示した際に書き間違いが発覚したり、遺言内容があいまいだったりして、結果的に無効となってしまう例も少なくありません。

自筆証書遺言を選ぶのであれば、専門家の意見を聞いたり、Web上の書式例を参考にしたりしながら、確実に書式を守ることが肝心です。

公正証書遺言

遺言書を公文書として作成し、遺言書として法的な効力を確実に持たせるために用いられる方法です。
相続財産が特に大きく、遺産の分配が複雑な場合などに用いられます。

公正証書遺言は、公証役場で作成され、法律の専門家である公証人が所定の書式を満たした形で完成させてくれますから安心です。
ただ、遺言者が伝えた遺言内容を公証人が文章として形にするため、その分作成に時間がかかりますし、相続財産の価額に応じて手数料が発生します。

多少お金はかかってもいいから、確実に財産を相続させたい場合・自分の意志を通したい場合は、公正証書遺言を選ぶと確実です。

秘密証書遺言

遺言の内容を秘密にしたまま、公証人に遺言の存在を証明してもらうという、少し特殊な方法です。
遺言の内容を誰にも知られないまま遺言があることを証明してもらえるので、内容が外に漏れるリスクはほとんどありません。

しかし、この方法では公証人が正しい書式で遺言書を作成しているかどうかが分からないため、開示した際に法的効力がないと分かるケースが考えらえます。
よって、他の方法に比べると、利用されることは少ない傾向にあります。

広い意味では、葬儀のやり方や遺族に感謝の気持ちなどを伝えることも含まれる

遺言書は、遺産相続に関する取り決めを遺族に伝える意味合いだけでなく、自分の死によって遺族にかかる負担を軽減する意味合いも持ち合わせています。
例えば、葬儀をどのように進めればよいか・葬儀費用はどうなっているかなど、具体的な葬儀のやり方に言及している遺言書は珍しくありません。

また、文末に「付言」として、家族への感謝の気持ちを伝えたり、今後注意すべきことをまとめたりすれば、その言葉は悲しみに暮れる遺族の心を癒してくれます。
法的効力に気を配るだけでなく、自分を失って悲しむ人のために何ができるのかを考えることが、遺言書を作成する上でのエチケットです。

遺言書にはどのような効力があるのか

遺言書が「法的効力」を持つということは、遺族は遺言書に従って重要な案件を処理していく義務があることを意味します。
具体的には、正しい遺言書には以下のような効力が発生するため、記載された内容に従って手続きを進めていかなければなりません。

遺産の相続に関することを指定できる

遺言書の法的効力は、主に相続に関することを指定しています。
具体的には、以下のようなものが該当します。

  • 相続人の廃除/廃除取消
  • 相続分の指定(他者への委託も含む)
  • 遺産分割方法の指定(他者への委託も含む)
  • 遺産分割の一定期間禁止(最大で5年以内・更新可)
  • 相続人の担保責任の指定(資力の少ない相続人は担保責任を免除・減免するなど)
  • 遺言執行者の指定(他者への委託を含む)
  • 遺留分減殺方法の指定(複数の遺産の中から、減殺の順序を指定できる)
  • 財産の処分に関すること
  • 財産の遺贈に関すること

やや分かりにくいものとして、相続人の担保責任の指定があります。
これは、例えば土地と現金を兄弟が別々に相続し、土地の価値がほとんどないような状況で、土地の相続者が現金の相続者に損害賠償を求めるケースが該当します。

現金の相続者がお金に困っていて、それで遺言者が現金を相続させたいと考えているような場合は、担保責任を免除するよう指定することができるのです。
法的効力に関することは、他にも一言で聞いて分からないものがたくさんありますから、作成前の段階で事前に確認しておくことが大切です。

子供の認知や内縁者への相続もできる

認知の問題は複雑で、隠し子など家族に隠しておかなければならない事情があるケースも見られます。
しかし、親としては可愛い子供に少しでも遺産を遺してやりたいと思うのが人情です。

そこで、生前に認知することが子供のためにならない場合、遺言を残す段階で認知を行い、事情があって家族に迎え入れられなかった子供を遺産相続の対象に含めることができます。
内縁の妻・愛人に対して財産を渡す場合も、遺言書に書き含めれば効果を発揮します。

遺言を執行する人・後見人・後見監督人を指定できる

自分が亡くなった時、未成年の子供を育ててくれる人がいない場合など、遺言で後見人・後見監督人を指定できます。
後見人は親族の申立てによって選任されるのが一般的ですが、遺言で指定することもでき、未成年者の財産管理を行います。

さらに、後見人が任務を怠ったり、不正を働いたりすることのないよう監視する、後見監督人も合わせて指定できます。
後見人選びは裁判所に任せ、後見監督人だけを指定するケースもあります。

遺言書では法的に保証できないこと

ここまで、遺言書の概要・遺言書でできることをお伝えしてきましたが、残念ながら遺言書では法的に保証できないこともいくつかあります。
以下に、具体的なケースをご紹介します。

結婚・離婚に関する取り決め

自らの死に伴い、特定の相手と結婚する・あるいは離婚するといった取り決めは、遺言書では無効となります。
また、家族の誰かに「自分が死んだら○○さんと結婚して欲しい」と取り決めることもできません。

養子縁組

自分の死をきっかけに、誰かを養子縁組するよう取り決めることはできません。
どうしても特定の誰かに遺産を相続したいのであれば、自分が生きているうちに養子縁組を行う必要があります。

故人の借金や遺体解剖・臓器移植に関すること

故人が持っている借金を、妻ないし子供に分配して返済させるような遺言書は無効です。
よって、そのような内容が書かれていたとしても、相続人は相続放棄ができます。

また、遺体解剖や臓器移植に関することは、家族の同意があって成立するものなので、遺言書を読んでその意思が分かったとしても、遺言書が見つかったタイミングによってはすでに身体が灰になっている可能性があります。

よって、確実に意思を通したいのであれば、生前に家族とよく話し合った方が確実です。

抽象的な約束事は効力を持たない

家族に対して自分の想いを伝えたい気持ちは分かるのですが、あまりに抽象的な約束事をしたとしても、それは法的効力がありません。

例えば、「これからも家族みんなで仲良くして欲しい」・「俺の葬式は○○ホテルで盛大にあげて欲しい」といった内容は、未来永劫守れる保証もなければ、会場として選べるかどうかも分かりません。

どうしても希望を文章にして残したいなら、エンディングノートのような形で残しておくとよいでしょう。
法的効力はありませんが、家族に気持ちを伝えることはできるはずです。

この記事のまとめ

遺言書は、ただ書けばよいというわけではなく、正しい書式にのっとって書かなければ意味がありません。
また、法的効力を持たせられることも限られており、遺言者の希望の全てが叶えられるわけではありません。

家族に迷惑をかけないためには、所定の書式を正しく理解し、家族の利害に直結する部分だけをきちんと書き記す必要があります。
専門家の意見を聞いてから作成する・公証人を頼るなど、確実に執行される遺言書を残せるよう事前に準備することが大切です。

  • 公開日:2021.08.30

テーマ:相続・遺言

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