遺言書を書く前の事前準備について。
準備しておくべき事などのポイントと注意点
万が一、自分が亡くなった場合に備え、家族に向けて遺言書を書くのは大切なことです。
しかし、中身が間違っていると、遺言書自体が無効になってしまう可能性がありますから、実際に作成する前に事前準備をしておいた方がよいでしょう。
事前に把握しておきたいこと・準備しておきたいことは多数ありますから、時間をかけてできることから始めるのが得策です。
また、一通りの準備が終わった段階で改めて確認しておきたいことなど、覚えるべきことは多岐にわたります。
この記事では、そんな「遺言書を書く前に知っておきたいこと」について、確実に押さえておきたいことをまとめています。
自分の大切な家族のためにも、気になる点はおろそかにせず、一つひとつ丁寧に確認していきましょう。
遺言書を書く前に準備しておきたいこと
遺言書を作成するにあたり、注意したいのは「ミスをなくすこと」です。
何らかの不備が見つかってしまうと、その段階で修正や書き直しなどを考えなければなりませんし、自分の死後にそれが判明すると遺産相続が面倒になります。
正しい情報を遺言書に書いておけば、相続人の理解を助け、要らぬ争いを防いでくれます。
少なくとも以下の点については、遺言書を書く前に準備しておきましょう。
財産を一つひとつ洗い出す
相続人が相続すべき財産に関しては、ノートなどにすべてを書き出しておきましょう。
もし、相続財産がすべて遺言書に書かれていなかった場合、遺言書に書かれている内容の財産に関しては問題ありませんが、その他の財産は遺産分割協議が必要になります。
財産にあたるものは数多く存在し、現金や株式・不動産はもちろんのこと、掛け軸や壺などの骨董品・ゴルフ会員権・自動車・高級ブランドバッグ・宝石なども該当します。
中には、特許などの知的財産もありますから、自分は何を財産として相続できるのか、あらかじめ弁護士・司法書士などに相談することをおすすめします。
漏れがあると、相続に関する手間が一つ増えることになるので、あらゆる財産を一度洗い出しておくことが大切です。
誰に相続できるのか、法定相続人を把握する
遺産というものは、遺言書を残せば誰にでも相続できるものではありません。
日本では原則として、法定相続人に該当する人物が相続の対象となるため、誰が相続人となる可能性があるのか、事前に確認が必要です。
夫が亡くなった場合、妻と子供に遺産を相続するのは自然な流れですが、家族構成によっていくつかバリエーションがあります。
もし子供がいないなら孫に、孫がいないなら親に、親がいないなら兄弟姉妹に、兄弟姉妹がいないならおいっ子やめいっ子に……と、法定相続人にも順番がきちんと決まっています。
また、自分に離婚歴があって前妻との間に子供がいる場合、新しい家庭の子供だけでなく、前妻の子供も相続の対象となります。
その他、隠し子のように家族には公にしていない子供に対しても、遺産があるなら相続の意志があるかどうかを確認しなければなりません。
この点のチェックを怠ると、将来的に遺産相続でトラブルが発生するおそれがありますから、見逃すことのないようにしましょう。
遺言で誰に何を相続させるのかを決める
遺言で決められる内容には、財産に関することと、身分に関することがあります。
これを遺言事項と呼び、具体的に「誰に何を相続させるのか」を遺言書に記載するためには、必ず決めておかなければなりません。
財産に関すること
家族が悩まないよう、遺産分割の方法を定めたり、不動産を相続する人物・株式を相続する人物などを一人ひとりあらかじめ決めたりと、細かいことまで考えると数多くの決定事項があります。
例えば、生命保険の受取人に関しても、自分が被保険者であり受取人である場合は、遺言書で受取人を定めることができるのです。
自分で個々のケースを洗い出し、ノートにまとめようとすると、なかなか骨が折れる仕事です。
できるだけ時間をかけて、考えられるものはすべて洗い出し、必要に応じて専門家に相談しながらまとめていきましょう。
なお、先ほど「原則として相続の対象は法定相続人」とお伝えしましたが、一部例外として、遺言書で遺産の一部を縁故の人物に対して遺贈することもできます。
法定相続人に必ず相続しなければならない遺留分を残しておく限りは、遺言者が自由に遺贈できますから、必要に応じて遺贈する資産・相手も考えておきましょう。
身分に関すること
身分というのは、いわゆる身分証明ということではなく、あくまでも「遺産を相続できるかどうか」という意味での身分を、遺言事項に書き含めることを言います。
具体的には、子供を認知して相続権を与えること・親を失った小さな子供のために未成年後見人を指定すること・相続人にふさわしくない人物を廃除することなどが該当します。
自分の意志を通すためにも、大切な家族・子供に遺産を相続させることができるよう、書くべきことは包み隠さず書いておきましょう。
なお、相続人の廃除に関しては、遺言者が存命中でも申立てができます。
遺言執行者を誰にするか決める
遺言執行者とは、かんたんに言うと相続人の代表にあたる役職で、遺言の内容を実現させるために必要な手続きを行う人のことです。
相続人の中から選ぶこともできますし、直接相続に関係のない人の中から信頼できる人を選ぶこともできます。
ただ、遺言者が亡くなった際に、その意思を継いで相続を完了させる重要な仕事を担うため、誰でもできることではありません。
また、破産者・未成年者は遺言執行者になれませんから、それも踏まえた上で適任者を見つける必要があります。
相続手続きがよく分からない人に任せてしまうと、かえって色々と混乱してしまうのは目に見えているため、あえて弁護士などのプロに頼む人もいるようです。
遺言書の形式を決める
遺言書には、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言という3つの形式があり、多くの場合自筆証書か公正証書を選びます。
それぞれにメリット・デメリットがありますから、自分に合った形式を選んで、確実に効力を発揮する遺言書を作りたいところです。
自筆証書はもっとも簡単に遺言書を作成できる方法ですが、わずかなミスで無効になったり、法律の解釈によっては特定の相続人が不利になったりするおそれがあります。
公正証書は法律の専門家に遺言書を作成してもらい、検認などの面倒事が省ける反面、相続させる遺産の価額に応じて手数料がかかります。
秘密証書の場合、そもそも手続きが面倒な上に、遺言書自体が間違っていると効力を発揮しません。
ただ、パソコンで執筆できるメリットもあることから、専門家のアドバイスを受けながら作成できるのであれば、良い選択肢の一つと言えるかもしれません。
家族や子供たちに伝えたいことを考える(付言)
意外と忘れがちなのが、遺言書に残す「付言」の存在です。
付言は法的効力こそないものの、相続人たちの心に響く言葉を選べば、自分の理想通りの相続を実現するのに役立ちます。
遺産相続は、家族の絆を強めることもあれば、バラバラにしてしまうこともあります。
特に、一見不平等に見える財産分配を行った場合、一部の相続人が怒り・悲しみからトラブルを引き起こすことは少なくありません。
それを防ぐために、自分がどうしてこのような遺言を残したのか、分かりやすく丁寧に、温かみのある文章で伝えることは、遺産相続を円滑に進めるために重要です。
家族の知らない特別な事情がある場合はもちろん、信頼関係のある家族の間でも感謝の気持ちを伝えるなど、心に残る言葉を紡ぎたいものです。
遺言書を書く前に確認しておきたいこと
遺言書を作成する前に準備することは多数ありましたが、これらを一通りまとめておけば、少なくとも内容に不備が生じることはないでしょう。
続いては、実際に遺言書を書く段階になってから、ミスにつながりやすい部分を確認していきます。
遺留分について理解する
遺留分とは、法律によって相続人に保障されている最低限の相続分で、これを超えた遺産を特定の人物に相続させることはできません。
自分がどんなにお世話になった人物であっても、残念ながら日本の法律では、遺言者の家族・親族が優先されます。
仮に、血縁のない人物に遺産のほとんどを相続させようと考えていたとしても、家族が遺留分減殺請求(遺留分をもらえるよう相続者に請求すること)を行えば、希望通りの相続を実現することはできません。
請求を取り下げてもらうためには、生前のうちにきちんと希望を家族に伝えておいたり、付言で詳しく説明したりして、家族に納得してもらう必要があるでしょう。
契印を行う
遺言書は、内容によっては1枚で済むこともありますが、遺産が多い場合・法定相続人が多い場合などは、2枚・3枚にまたがることも十分考えられます。
このような場合、複数枚の遺言書が1つの連続した文書であることを証明する意味で、すべてのページにまたがるよう捺印し、文書の抜き取り・差し替えを防ぎます。
相続人の名前を書く場合、続柄や住所を合わせて記載する
遺言書を書く場合、各種例文をチェックしながら文章を構成していくと思います。
この時注意したいのは、相続人をきちんと特定できるよう、氏名だけでなく生年月日・続柄・住所についても記載することです。
特に、法廷相続人以外に遺贈を行う場合、家族でも情報が少ないケースは珍しくありません。
遺言執行者が事情を知らない場合、余計に困惑させてしまうおそれがありますから、人物を特定できる情報は詳しく記載しておきましょう。
この記事のまとめ
遺言書を書く機会は、おそらく人の一生でもそう多くありません。
実際に書こうとすると、集めるべき情報・考慮すべき内容が多いことに驚かされるはずです。
だからこそ、元気なうちに有事のことを考え、遺言書を書くための情報を準備しておくことが大切です。
また、一度書いて終わりにせず、環境の変化に伴いこまめに内容を見直す習慣を付けておくと、より完全な内容に近くなります。
せっかく作成した遺言書によって、かえって周囲が混乱することを避けるためにも、遺言書の内容は入念に推敲することをおすすめします。