墓石と似て異なる「供養塔」について
その特徴や種類と墓石との違いや建てる意味

  • 2019.12.16
  • 2020.04.17

お墓

私たち日本人にとって、お墓と言えば四角い墓石をイメージするのが一般的です。
しかし、たまに日本建築に見られる塔のようなモニュメントを、お墓で見かけることがあります。

これは供養塔と呼ばれ、一説によると平安時代から存在していたと言われますが、そのルーツや建立する意味・墓石との違いを知っている人は多くありません。
今回は、この供養塔に関する詳細をご紹介します。

供養塔とは何か

供養塔という名前からして、何らかの供養に用いることはイメージできると思います。
ただ、具体的に何を供養するのか、塔を見てもよく分からないデザインになっていることが多く、建立する前にその意味を正しく理解することが大切です。

供養塔とは、死者の供養のために立てる「石造りの塔」のこと

供養塔で供養するのは、過去に何らかの理由で亡くなった死者・祖先の方々です。
その対象となる人の範囲は非常に多く、古くは戦争・天災で命を失った人や、身寄りのない人を供養するために建立された歴史を持ちます。

日本の歴史において、鎌倉幕府の力を朝廷に知らしめた「承久の乱」では、その裏で数多くの人々が戦争により亡くなりました。
主力が激突した前渡(まえど)がある岐阜県各務原市には、そのような人たちの魂を慰めるために建立された合戦供養塔があります。

原爆が落とされた広島市には、広島平和記念公園の敷地内に原爆供養塔が建立されていますし、阪神大震災・東日本大震災などの自然災害についても供養塔は建立されています。

古くから、数多くの命を供養する目的で、供養塔は用いられていたのです。

供養塔のベースとなったのは「五輪塔」

後述しますが、供養塔には様々な形のものがあり、その中でも特に有名なのが「五輪塔(ごりんとう)」というデザインです。

この形は仏教における「五大(ごだい)」の概念を表していると言われており、方形(四角い形)の地輪・円形の水輪・三角形の火輪・半月型の風輪・宝珠型の空輪が積み重なって、宇宙を表現しているものと解釈されています。

五輪塔が作られ始めた当初は、密教の影響から梵字の彫刻がなされていましたが、やがて他の文字(南無阿弥陀仏など)を刻んだ塔も見られるようになりました。

現代においては、ご先祖様を供養するために墓地に建立されているものもあれば、一般のお墓のスペースに供養塔が立てられていることもあります。

現代では永代供養の埋葬方法として用いられることも

現代で供養塔が建立される理由についてもう少し掘り下げてみると、永代供養の増加が一因となっていることが分かります。

永代供養においてポピュラーなのは合祀墓で、お墓の管理をしてくれる家族がいない・お墓を建てるお金がないなど、様々な理由で自家のお墓を持てない人の選択肢として考えられています。

供養塔は、言わば合祀墓の高級版とも言え、そのお寺の住職により永代にわたり追善供養がなされます。
宗派問わず納骨ができるお寺もあるため、自分たちの家のお墓は持てないけれど、できるだけ丁寧に供養してあげたいと考える層から人気を集めています。

供養塔にはどのような形の種類があるのか

次に、日本にある供養塔の種類についてご紹介します。
供養塔の概要を説明した際にもお伝えした通り、一口に供養塔と言ってもデザインは複数あり、その意味するところ・グレードも若干異なります。

実際に自家のお墓のスペースに建立することを想定するのであれば、各種デザインの違いを踏まえた上で選びましょう。

五輪塔(ごりんとう)

全てのデザインのベースになるものです。
仏教世界における宇宙をモチーフにしたデザインであり、古くから知られているものです。

五輪塔を死者・故人・先祖の供養に用いる理由は、まさに五輪塔が宇宙を表しているからであり、自然の中に魂が帰ることを表現しようと試みた結果だと推察されます。

基本的に、どの宗派においても用いることについて制限はありませんが、浄土真宗には先祖供養の概念がないため、原則として不要と説明されます。

一石五輪塔(いっせきごりんとう)

五輪塔と同じ意味なのですが、こちらは一つの石から掘り出されたものを指し、一般的な五輪塔よりも簡素な造りとなっています。
細長いデザインになっているものもあれば、ずんぐりむっくりな可愛らしいデザインのものもあります。

材料は石一つのため、他の五輪塔に比べて金額が安価に抑えられます。
相場としては30万円ほどで、気軽に手が届く値段と言えるでしょう。

宝篋印塔(ほうきょういんとう)

供養塔の中でも極めて豪華な造りとなっていて、このような名前がついたのは、塔の中に「宝篋印陀羅尼経(ほうきょういんだらにきょう)」を納めていることに由来しています。

このお経について説明するためには、まず「陀羅尼(だらに)」とは何なのか、ということを説明しなければなりません。

陀羅尼というのは、真言宗で言うところの真言であり、サンスクリット語を翻訳せず音写したものを意味します。
御仏の教え・ご利益をそのまま伝えるものと理解されており、そのまま読む・敬うことで功徳が得られるとされています。

その中で、罪障消滅・寿命長寿の功徳があるとされているのが「宝篋印陀羅尼」で、宝篋印陀羅尼がが宝の箱に入って納められている塔が「宝篋印塔」という位置づけです。

宝篋印塔自体の由来は中国にあり、呉越王銭弘俶が作った金銅製の塔が日本に伝わり、現在の形に進化しました。

塔らしさを色濃く表現しているデザインの一つで、特に屋根部分の装飾が細かいことが特徴です。
ちなみに、関東で見かける石造の宝篋印塔は、鎌倉時代以降に数多く建てられたものが多いようです。

無縫塔(むほうとう)

ちょっと変わった供養塔で、僧侶の墓塔として用いられるものです。
塔の形が卵のように見えることから、別名として「卵塔」と呼ばれることもあります。

主に禅宗で、高僧のお墓の代わりとして建てられたものが始まりです。
僧侶用の墓塔であることから、本来は一般家庭のお墓に用いられることはありません。

しかし、現代では宗派を超えて利用され、僧侶以外の墓塔としても用いられている例も見られます。
歴代のお寺の住職のお墓として、お寺の墓地に並んでいることもあります。

卵型の塔身(一番上の部分)は、細長いものと祭壇にオーブのような形で捧げられている形状とに分かれ、それぞれ単制・重制という区分がなされています。
江戸時代には、大名が使った例もあるようです。

笠塔婆(かさとば)

供養塔というよりは、どちらかというと卒塔婆に近い造りになっていますが、こちらも供養塔として分類されることがあります。
基礎の上に板状・角柱の塔身を置き、その上に笠を乗せ、頂上に宝珠を置いた塔のことを指します。

塔身に様々な文字が刻まれているのが特徴であり、この点が卒塔婆に酷似しています。

卒塔婆(そとば)

五輪塔とは違うジャンルになりますが、意味としては五輪塔がルーツになっているため、こちらもご紹介します。
追善供養のために、経文や題目などを書いてからお墓の後ろに立てる、塔の形をした木の板のことを指します。

亡くなった方の冥福を祈る追善供養の習慣から生まれたもので、木の形状が五輪塔を模しているという特徴があります。

供養塔と墓石の違いとは

供養塔の概要・種類について知ると、素人目には墓石と大差ないものに思えてきます。
しかし、建立物が意味するところは、それぞれで全く別となっています。

以下に、供養塔と墓石の違いをご紹介します。

現代で言えば、供養塔はタワーマンション・墓石は一軒家という違い

現代の建築物で役割の違いを例えると、供養塔はたくさんの人々が住むタワーマンションであるのに対し、墓石は家族単位で暮らす一軒家という違いがあります。

昔々、供養塔が戦場跡に建立されたのは、それだけ多くの血が流れたことの名残でもあるのです。
自家のお墓に供養塔を建てるのは、自分たちの家族・直系のご先祖様だけでなく、その周りに縁をなす全ての霊を祀る目的があります。

それゆえ、供養塔を建てることが功徳につながると考える向きもありますが、宗派・仏教の教えという観点から考えた場合、決して義務ではありません。

分家した場合に立てるという説もある

自分が分家した場合の家主である場合、分家初代となります。
このとき、お墓を建てる前に供養塔を建てることを、親族や仏事に詳しい人からアドバイスされることがあります。

もちろん、仏教において供養塔の建立は義務ではありませんから、鵜呑みにする必要は全くありません。
しかし、先祖代々への感謝の気持ちを表現する・先祖との縁をつなぐ目的で、供養塔を建てるケースは少なからず存在するようです。

予算がない場合は、木標(もくひょう)と呼ばれる木でできた墓標を建てるのがよいとされていますが、こちらも義務ではありません。

お地蔵様を建立する家もあるが、それは子どものためである

供養塔と似たような意味なのですが、水子供養・夭折した子どもの霊をなぐさめるため、お地蔵様を建立している家もあります。
これも、解釈としては供養塔に似ていて、子どもが不憫な思いをしないよう、特別に供養する意味合いがあります。

ただ、お地蔵様は「亡くなった人が地獄に落ちないよう分け隔てなく救う」ことを誓願した御仏ですから、五輪塔の代わりに存在を知っているお地蔵様を建立するのも間違いではありません。

五輪塔に限らず、自分や家族が祈りやすい対象を建立するのも、一つの供養の形と言えるはずです。

この記事のまとめ

供養塔にはいくつか種類があるものの、意味するところは同じです。
ご先祖様を手厚く供養すること・永代供養の手段とすることなど、死後の安寧を祈るための対象として用いられています。

今後、少子高齢化が加速し、お墓の購入・管理が困難になるにつれて、供養塔の存在がより重要視されるでしょう。
建立・永代供養の依頼を考えているなら、菩提寺に供養塔について相談するのも一案です。

  • 公開日:2019.12.16
  • 更新日:2020.04.17

テーマ:お墓

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