香典返しの熨斗(熨斗)の基本。
熨斗の必要性や選び方と書き方や掛け紙との違い
香典返しをもらう時、多くの人は何が入っているのかはチェックしても、熨斗(のし)が付いているかどうかは気にしないものです。
しかし、熨斗は贈り物に必ず付けるべきものとされ、香典返しにも紙が貼られています。
厳密に言えば、香典返しに貼られているのは熨斗ではなく「掛け紙」と呼ばれるものです。
今回は、香典返しに貼られてる掛け紙と熨斗との違いや、掛け紙の選び方・書き方についてご紹介します。
そもそも、熨斗と掛け紙はどう違うのか
日本人の多くは、贈り物をのし紙で包むとき、熨斗と掛け紙の違いなど特段知らずに用いています。
セレモニー・贈答品に携わる人以外は、なかなかその違いを自覚して暮らすのは難しいものです。
そこで、まずは熨斗と掛け紙について、その根本的な違いをご説明します。
熨斗の習慣は「神様への贈り物」という考え方が原点にある
一般的に、熨斗と聞くと「のし紙」そのものを想像しますが、これは誤りです。
厳密には、のし紙の水引結び目からやや右上にある、華やかな絵柄のことを指すのです。
もともとは、アワビの肉を薄く削いだものを干しておき、琥珀色に乾いたところで押し伸ばし、何度か洗って押し伸ばす工程を繰り返して出来上がったものをいいます。
これを包装の上から右肩に貼りつけ、生ものを添えたという意味にしていたのが原点です。
このような習慣が生まれたのは、そもそもアワビが長寿をもたらす食べ物と認識されていたことが挙げられます。
古来より神饌・縁起物として供えられてきましたが、やがて習慣は簡略化され、のし紙に印刷されるようになりました。
現代では、生もの以外の贈り物にはのし紙を付け、生ものにはのし紙を付けないという習慣が定着しています。
ただ、現代でそこまでこだわって熨斗を選んでいる人は、少数派と言ってよいでしょう。
掛け紙は弔事で用いられるもの
熨斗は基本的には慶事に用いられますから、言うまでもなく弔事には適しません。
葬儀の香典返しには「掛け紙」を用います。
掛け紙には熨斗は印刷されておらず、多くの場合、黒白の結び切りが印刷されているのみです。
特に仏教では、生ものを供え物とすること自体が禁止されているため、そのような意味合いからも「アワビ」が原点となっている熨斗を張り付けるようなことは避けるべきです。
黒白の結び切りに文字を書くのは、香典袋と同様の理由であり、一度結んでしまうとほどけなくなる結び方から「悲しいことを二度と繰り返さない」という意味があります。
めでたい事か、忌むべき事かによって、熨斗の有無が分かれるという理解でよいでしょう。
掛け紙の選び方とは
続いては、掛け紙をどのように選ぶべきなのか、その選び方をご紹介します。
主に宗派の別による種類の分かれ方となっていますが、一部地域で用いられているものもあります。
宗派問わず使えるもの
宗派問わず使える掛け紙は、単純に黒白の結び切りだけが印刷されているものです。
仏事全般に用いられるため、最も多く用いられる掛け紙です。
仏式でのみ使えるもの
仏式のみで使える掛け紙は、黒白の結び切りの下に「蓮の花」が印刷されているものです。
蓮の花は仏教におけるシンボルであることから、キリスト教・神道などの葬儀には適さないものと考えられています。
一部地域で用いられるものなど
関西方面では、黄白の結び切りを用いる場合があります。
これは北陸地方などでも知られている習慣ですが、北海道・東北・関東などでは用いないため、全国的に知られているものではありません。
黄白の結び切りを選ぶ理由も関西独特の習慣が関係しており、四十九日を終えた後で香典返しを贈る際に用いられます。
後述しますが、関西などではその状況を「満中陰」と呼び、忌明けに香典返しを贈る場合の名称となります。
掛け紙の書き方・掛け方とは
掛け紙の種類は、香典袋に比べると明確に種類が分かれているわけではありません。
一部宗教・地域によって多少の表現の違いが生じているに過ぎないため、比較的覚えるのは簡単かもしれません。
宗教・地域によって異なる表現
まずは、宗教・地域によって異なる、掛け紙への表書きの書き方についてご紹介します。
パターンはそれほど多くなく、地域によって使用の有無が変わってくる例だけを押さえておけば、間違えることは少ないでしょう。
宗教・地域問わず使えるもの
宗教・地域問わず使える掛け紙の書き方としては、黒白の結び切りの結び目の上部スペースに「志(こころざし)」と書きます。
志と聞くと、今後の願望・目標といった意味合いで覚えている方が多いと思いますが、根本的な意味合いとしては「気持ち」のことです。
つまり、志と書き記すことで、受け取る側に「ほんの気持ちばかりのお返しです」という意味を伝えています。
その後、結び目の下には「○○家」といった家名(苗字)や「喪主の氏名」を記載します。
仏式で用いるもの
仏式で使われる掛け紙の書き方は、同じく黒白の結び切り・結び目の上部スペースに「志」となります。
このとき、結び目の下部に蓮の花が印刷されているものも使われますが、家名や喪主の氏名を書く際、花の上に文字がかかっていても構いません。
また、仏式については特殊な書き方をするケースがあり、関西・北陸などで用いられる「黄白の結び切り」を選ぶ場合は「満中陰志(まんちゅういんし)」という文字を志の代わりに書きます。
これは、黄白の結び切りだからそのように書く、という意味ではなく、関西における仏事の名称が関係しています。
満中陰というのは、仏教において次の生が決まる時期「中陰(ちゅういん)」が過ぎたことを意味する言葉で、要するに仏事における四十九日とほぼ同じ意味で用いられます。
この時期は、人が亡くなってから7日間ごとに生前の罪に対する裁きが行われ、最終的に生まれ変わる世界が決まる、という仏教観に基づき定められています。
よって、満中陰法要が関西では四十九日法要の代わりに行われており、その際の香典返しという意味で「満中陰志」という表記になります。
厳密に言えば、葬儀・告別式でいただいた香典・お供えに対するお返しを「忌明け」に行う場合に用いられます。
関西で黄白の結び切りを用いるのは、古来から日本で続いてきた色の順列の中で、黄色が下から2番目の位だったからです。
四十九日(中陰)を過ぎて辛さを乗り越え、最悪の状況から少し立ち直った、という意味で、黄色が用いられているのです。
その他の宗教で用いるもの
神式・キリスト教の葬儀においては、志の他に「偲び草(しのびぐさ)」という表現を用います。
言葉の意味は「故人を偲び、追慕している気持ちを粗品に代えさせていただきます」というもので、香典という概念のない神道・キリスト教で用いるのにふさわしい表現として知られています。
香典返しにあたるものを贈るタイミングとしては、神道は五十日祭(三十日祭の場合もある)を、キリスト教は追悼ミサ(カトリック)・召天記念式(プロテスタント)を選びます。
結び切りの色としては、東日本が黒白・西日本が黄白とされていますが、このあたりは地域によって異なるものと考えた方がよいでしょう。
内のし・外のしの違いについて
ここまでご説明してきた通り、香典返しには熨斗ではなく掛け紙を貼り付けます。
しかし、貼り付け方が一般的な贈り物とは違い、香典返しは主に「内のし」という方式が用いられます。
内のしとは、品物の上に直接掛け紙をかけ、その上から包装紙で包む方式のことです。
これに対して、包装紙の上からのし紙をかける方式を「外のし」と言います。
内のしは、一般的に葬儀が一通り終わって香典返しを送付する場合、つまり香典をくれた相手に直接会わない場合に用いられます。
これに対して、相手に直接会って香典返しを渡す場合は、外のしを選ぶケースが多いようです。
直接持参するか・郵送や配送などの方法をとるかによって、内のし・外のしの種類が分かれているものと考えておけばよいでしょう。
墨の種類について
一般的に、香典袋などに表書きを書く場合は、涙で墨がにじんで薄くなるという意味合いから「薄墨」を用います。
しかし、香典返しの掛け紙に関して言えば、その必要はありません。
これには理由があり、香典を受け取る場合と香典返しを送る場合とでは、立場と心境が異なるからです。
香典を遺族に手渡す状況というのは、多くの参列者にとって突然の話です。
よって、突然の不幸に対して心が追い付かず、墨も涙でにじむほどの驚きと悲しみがあった、という意味合いで、香典は手渡されます。
これに対して香典返しは、その突然の悲しみからある程度時間が経過した段階で送られ、故人のために参列してくれた人たちに対するお礼として贈り物をするという意味合いになることから、涙で墨がにじむというニュアンスにはつながりにくい部分があります。
よって、香典返しの掛け紙は、一般的な濃さの墨で問題ありません。
ただし、地域によっては四十九日までは薄墨・四十九日を過ぎてからは濃い墨という形で色分けしているケースもありますから、不安を感じたら年長者に確認しておきましょう。
この記事のまとめ
香典返しにおいて、熨斗を付けるという言い方は誤りだということが、お分かりいただけたと思います。
熨斗・のし紙・掛け紙の違いを知っているだけでも、選ぶ際の基準で迷うことはありません。
普段受け取る時には、香典返しの掛け紙など気にしないと思いますが、いざ自分が用意する状況に備え、正しい知識を身に着けておきましょう。