遺言書は勝手に開けると法律違反?
遺言書ごとの正しい開封方法と注意点について
父が亡くなってから時間が経過して、書斎を掃除していたところ、机の中なら「遺言書」が見つかった……。
このような状況で、好奇心から遺言書を開けたくなる人は多いと思いますが、実は遺言書を勝手に開けるのは法律違反なのです。
遺言書を見つけたら、そのままにしておくことはもちろん、勝手に開けて遺言通りに遺産相続を進めることも認められません。
これから遺言書を作成しようと考えているなら、そのあたりの事情を勘案して、遺族が混乱しないよう準備を進めたいところです。
この記事では、遺言書の正しい開封方法や、遺言書を間違って開けられないようにするための注意点についてご紹介します。
一口に遺言書といっても、いくつか形式がありますから、それぞれで押さえておきたいポイントについても確認しておきましょう。
遺言書は家族が勝手に開封してよいものではない
遺言書は、間違いなく家族のために書かれたものですが、家族自身が開けられないという性質を持っています。
しかし、そもそも遺言書について遺言者自身の知識があいまいだと、家族も遺言に関する知識がないままですから、将来的に誤解が生まれるリスクがあります。
具体的には、遺言書を開封してから弁護士に見せるものと勘違いしていたり、遺言書の内容通りに裁判所に行かないで遺産相続を済ませてしまったりと、意外と家族が勝手に考えて行動してしまうケースは多いものです。
まずは、遺言書は「家族が勝手に開封できない」という理解を、家族全員が持つことから始めたいところです。
遺言書の内容を確認する場合、家庭裁判所で「検認」という手続きが必要
遺言書はとてもプライベートなもので、親しい家族が遺言書を勝手に開いたとしても、それほど問題にはならないでしょう。
しかし、家族仲が悪い状況でその事実が発覚すると、途端に家族が開封者の不正を疑い出すおそれがあります。
社会的にも、遺言書をかんたんに開封できるような状況が認められると、中身のすり替え・書き換えが横行し、正しい相続ができなくなる可能性が高まります。
そこで、国は「検認」という手続きを設け、その遺言書が正しいものかどうかを第三者が判断できるようにしたものと推察されます。
検認とは、遺言書に書かれている内容について、裁判所が法的効力のある文書かどうかを確認してくれる手続きです。
また、検認まで遺言書が開封されていないことが確認できれば、偽造・変造のおそれもないと証明できます。
よって、遺言書を自宅で見つけたら、家族は速やかに家庭裁判所で検認の手続きを行わなければなりません。
勝手に開けてしまうと罰金が発生するおそれがある
もし、すでに封をしている遺言書を家族が勝手に開封してしまった場合、どのような問題が発生するのでしょうか。
家族間の信頼関係が揺らぐケースも考えられますが、公的には罰金が科されます。
民法第1004条第1項に書かれている内容を見てみると、
『遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。』
とあり、その上で第1005条をチェックしてみると、
『前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。』
と、罰則が規定されています。
現実には、条文を知らないまま開封してしまうケースも十分考えられますし、実際に過料を支払った話を聞いたことがないという専門家の意見もありますから、そこまで深刻に考える必要はないかもしれません。
しかし、うっかり開けてしまったという場合でも、法律上は開封者には罰金が科されるおそれがありますから、遺言書の取り扱いには十分注意しましょう。
間違って開封してしまったとしても、遺言書自体の効力は失われない
仮に、家族が誤って遺言書を開封してしまったとして、その後遺言書はどうなるのでしょうか。
結論から言えば、もし家族が何らかの理由で遺言書を開封してしまったとしても、遺言書自体の効力は失われません。
誰かが中身を先に見たからといって、法的に遺言書が無効になるわけではありませんから、その点は安心して差し支えないでしょう。
ただ、相続人に対しては、事前にきちんと事情を説明した方が賢明です。
遺言書はどうやって開封するのが正しいのか
遺言書を、家族が勝手に開封するのはNGだというのは、先にご紹介した通りです。
それでは、実際に開封を行う場合、どのような流れで手続きをすすめればよいのでしょうか。
結論としては、見つけた段階で「速やかに家庭裁判所まで持って行くこと」が回答になるのですが、遺言書にはいくつか種類があり、それぞれで手続きのやり方が異なります。
以下に、かんたんな注意点も含め、正しい開封方法についてご紹介します。
自宅で遺言書を見つけたら、まずはそれを持って家庭裁判所まで足を運ぶ
まず、大前提として、自宅で封をされた遺言書が見つかった場合は、そのままそれを持って家庭裁判所まで足を運ぶと覚えておけば確実です。
自宅に遺言書が保管されていて封がされている状態であれば、主に以下のケースが考えられます。
- 自筆証書遺言
- 秘密証書遺言
これらの遺言書は、家庭裁判所で内容を検認する必要があります。
いずれの場合も、文書の内容は誰も分からないので、実際に開けてみないと何が書いているのか分からないからです。
特徴として、一般的な封筒の表面に「遺言書」と書かれていて、裏面に作成年月日・遺言者の氏名が書かれているようなら、それはほぼ間違いなく遺言です。
封印がなされているなら決して触れず、はがさないまま持って行きましょう。
検認手続きの申立てをする段階で、法廷相続人に連絡しておくとスムーズ
家庭裁判所まで遺言書を持って行き、検認手続きの申し立てをする場合、その時点で法廷相続人に連絡を入れておきましょう。
検認手続きを行った後は、裁判所を通して法廷相続人に連絡は入りますが、この点について当の申立人から連絡がないと、その点に不信感を覚える人もいるからです。
せっかくみんなのために申立てを行ったのに、それで不当に怒りや苛立ちをぶつけられるのは腹が立つでしょうから、変な疑いをかけられないためにも事前連絡を入れておくとよいでしょう。
また、検認手続きが終わるまでは、遺言書を人の手の届かないところに隠し、紛失を防ぐことが大切です。
遺言書が公正証書遺言なら、間違って開けてしまっても問題ない
遺言書の中でも、唯一中身を確認しても問題ない種類があります。
それは「公正証書遺言」です。
公正証書遺言は、公証役場で証人同席のもと、遺言者の意見を聞いて公証人が遺言書を作成したものです。
この場合、原本が公証役場に保管されるため、遺言者の手元には謄本(複写本)が残ります。
よって、勝手に開封してしまったとしても、遺言の内容自体は保証され、検認の必要もありません。
また、先に知ったか後に知ったかで内容に違いが生まれるわけでもありませんから、親族争いも防げます。
遺言書を勝手に開けられないようにするための注意点
自筆証書遺言・秘密証書遺言を作成する場合、検認まで遺言書を勝手に開けられないようにする必要があります。
以下に、遺言書を作成する人が知っておきたい、家族が開封を防ぐための注意点についてご紹介します。
遺言書を入れる封筒を二重以上にする
遺言書は、民法についての知識がない場合、家族は自分たちにあてて故人が書いたものと勘違いする可能性が高いです。
そのため、遺言書を入れる封筒に細工をして、開封しないよう気を配っておくと親切です。
一例として、遺言書が入った封筒を、さらに別の封筒に入れて保管する方法があります。
二重以上にして、最後の封筒を開く前の段階で「遺言書は裁判所に持って行かないとダメ」ということを家族に伝えれば、厳重に封がしてあることから事態を理解して、裁判所で検認手続きを進めることでしょう。
金庫など、かんたんに開けられないところに入れる
物理的な方法ですが、先の封筒を二重以上にする方法に加えて、封筒自体をかんたんに開けられないところに入れておくのも一つの方法です。
例えば、金庫のように鍵が必要なところ・家族の中でも夫婦しか知らないところに鍵をかけて封筒をしまうなど、限られた人に事情を伝えて保管場所を工夫します。
こうすれば、誰かが間違ってタンスの中から遺言書を見つけるようなことはありませんし、他の書類と一緒に整理してしまうこともありません。
できるだけ、家族と遺言書の意味・重要性を共有することが、要らぬ事態を引き起こさないための心構えととらえておきましょう。
エンディングノートに、検認から遺言執行までのスケジュールを書いておく
もし、自分が亡くなってから家族が戸惑うのを確実に避けたいなら、事前に予定を書き記して家族に渡しておけば安心です。
方法の一つとして、法的効力はないが家族にとって重要な情報を書き残せる「エンディングノート」があります。
エンディングノートは、市販品の中から探した場合、たくさんの種類があって驚くかもしれません。
しかし、法的に決められた形式があるわけではないため、大学ノートに内容をまとめても問題ありません。
ノートに書く内容は自由なので、引き継ぐ財産の種類を書き綴ったり、家族に対する感謝の気持ちを伝えたりする人が多く見られます。
ただ、別に検認の話や遺言執行までのスケジュールを書いてはいけない決まりはありません。
- 遺言書の隠し場所(配偶者など、親しい人物が知っているなら書かなくてもよい)
- 遺言書は自分の死後、家庭裁判所で検認を受ける必要があること
- 検認を受けた旨を、考え得るすべての法廷相続人に伝えること
- 検認が終わるまでに1ヶ月程度かかること
ノートの中に以下の内容を書いておくと、遺族がスムーズに遺産相続を進められるでしょう。
この記事のまとめ
遺族が遺言書を取り扱う上で確実に押さえておきたいことは、必ず裁判所で「検認」を受けてから開封することです。
独断で開封してしまうと、罰金を支払うおそれがある上、家族・親族関係に悪い影響を与えてしまうかもしれません。
遺族の側で気を付けるのはもちろんですが、できれば遺言者が気を遣って、遺族が勘違いしないよう導いてあげることが大切です。
エンディングノートなどを使い、検認のスケジュールと合わせて説明しておけば、遺族の混乱も少なくできるはずです。