簡単そうで難しい香典袋の基本とマナー
そもそもの意味や正しい選び方・お金の入れ方について
香典袋は、急な訃報を受けたとき、現代ではコンビニでも手に入ります。
そのため、香典袋自体の歴史・選び方については、多くの人が気にしなくなってきています。
しかし、香典袋はそのデザインや大きさなどによって、使う場面や入れる金額などに違いがあります。
今回は、簡単そうで色々と難しい香典袋について、その意味や生まれた背景・お金の入れ方・正しい袋の選び方などをご紹介します。
香典袋の意味・生まれた背景について
香典袋は紙でできているため、現代のように比較的どこでも手に入れやすい状況になったのは、日本の歴史を紐解くとつい最近のことだと推察されます。
しかし、文房具店・販売店でも、いつから香典袋が売られるようになったのかは定かではないようです。
もともとは「お香を供える」代わりに、食料・貴重な品を提供したのが始まり
香典袋について知るためには、まずは「香典」というものが何なのかを知る必要があります。
名前の通り、香典とは故人にお香を供える代わりに、食料や貴重品をその家に提供したものと解釈できます。
もっと古い言われとしては、お墓に香花をささげたことが由来になっているという意見もあります。
かつて、村社会で葬儀が行われた場合、近隣の住民に食事などを振る舞う習慣がありました。
ただ、これは遺族にとってかなりの負担であり、それを村全体で支えるために食料を提供したのが、香典の由来とされています。
金銭を介する香典が広まったのは明治以降
江戸時代までは、庶民にとってお金というのはそれほど身近なものではありませんでしたが、明治になってお札などが発行されるようになると、次第に金銭香典という形で広がっていきました。
江戸時代は米社会だったため、加賀百万石といったように「石(ごく)」の単位で価値が計られ、貨幣の流通は限定的でした。
しかし、明治時代の地租改正によって、収穫高に応じて定められていた年貢が「土地価格の3%」という一律の税金に変わり、全国各地で反対一揆が起こるまでになりました。
この頃には、貨幣が広く世に流通する流れが生まれ、職業・立場問わず香典を金銭で支払う習慣が広まり始めていたものと推察されます。
現代の香典の習慣が定着したのは戦後から
金銭が流通したとは言っても、やはり食料は重要な資源であり、村社会も依然として力を持っていました。
しかし、日本が世界大戦の流れに乗り敗北を経験する頃には、香典は完全に食料から金銭へと移行していたようです。
敗戦直後に群馬県で始まった「新生活運動」がその代表的な傾向であり、冠婚葬祭にかかる費用を負担できる状況ではないから、セレモニーを簡素化してお互いの負担を最小限に軽減しようという流れが生まれています。
つまり、このころには、現金香典を前提とする運動が、群馬で根付こうとしていたことが分かります。
よって、香典袋が量販されるようになったのも、おそらく戦後のドタバタが落ち着いてからだと考えられます。
香典袋へのお金の入れ方には、実はルールがある
お金はどのような場面でも大切に扱われますが、香典袋にお金を入れる際にも、細かいルールが定められています。
また、お金の状態や枚数にも細かい決まり事があるため、できるだけ覚えておいた方が無難です。
基本的な考え方は「顔が見えないこと」
お金を香典袋に入れる際は、お札に描かれている偉人の顔を見えないように入れることを意識します。
袋に入れる際は、袋の表面に対してお札の裏を見せるように入れ、偉人の肖像は下を向くように入れます。
顔がなかなか見えないように入れることが、お札の入れ方の基本です。
ただ、香典を改める場面では表裏など確認している時間はありませんから、現代ではあまり気にしていない人も多いようです。
葬儀社などで働いている人・会社の代表として香典をおさめる人などは、やはり知っていないと恥ずかしいという一面があるため、事前に勉強しておいた方がよいでしょう。
「新札で統一するのはNG」というのが原則
お札の向きはそれほど注意する必要はありませんが、誰が聞いても十中八九タブーだと話すこともあります。
それは「新札を香典袋に入れる」ことです。
一般的に、新札はキレイでかさばらないため好まれますが、葬儀の席でそれをやると「いかにも近々亡くなることを想定して用意した」ように遺族から思われるおそれがあり、控えるべきという意見が聞かれます。
とるものもとりあえず駆け付けたということで、古いお札を入れるのが礼儀とされています。
ただ、この説は習慣化された時点で形骸化されているとも言え、たまたま新札ばかりのときは「わざわざ折って入れる」などの方法を紹介しているマナー教室・葬儀社などもあります。
さすがにそれは、いかにも取って付けたような状況ですし、お金は汚くなければ誠意がないと考えるのも野暮なため、現代では新札でも構わないと話す人は少なくありません。
とはいえ、やはり年配の人は気にすることも多いため、祖父母の代の方が亡くなった際の葬儀に参列する場合は、あまりキレイではないお札を選んだ方が賢明です。
枚数にも注意すること
香典の金額は、故人との関係性によって相場があります。
その相場に従って香典を包むことになるわけですが、相場観に近い金額なら「いくらでもよい」わけではありません。
数える側の立場に立って考えたとき、極力数えやすい枚数にすることが望ましいという考え方があり、1枚・3枚・10枚といった枚数が好まれます。
また、日本では「四」は「死」を、「九」は「苦」を暗示して縁起の悪い数字だと考える傾向があるため、40,000円・90,000円といった金額は避けるべきものとされています。
地域や年代によっては、偶数自体を避ける傾向があるため、心配になったら年長者に相談することをおすすめします。
ちなみに、複数人で香典を包む場合、数の都合上致し方なく40,000円・90,000円になってしまうケースは珍しくありません。
このような場合は、包む人同士で金額を30,000円などになるよう調整したり、お札の枚数を奇数にしたりするなどの方法があります。
覚えておくと安心!香典袋の正しい選び方
お通夜・葬儀で受付などを経験したことがある人は、世の中にはこんなに香典袋の種類があるのかと驚いたはずです。
コンビニなどで買える簡易的なものは、水引と呼ばれる飾りひもが印刷されていて、表書きを書くのも書きやすい形になっています。
しかし本来、簡易的な香典袋は、ごく少額の場合・関係の浅い立場の人に向けた場合などに使うものであって、お金さえ入っていれば袋は何でもよいというわけではありません。
ここからは、覚えておくと使い分けできる、香典袋の正しい選び方をご紹介します。
水引の色で選ぶ
水引には、印刷されている以外にも、いくつか色が付いています。
それぞれで利用する場面や意味合いが若干異なるため、お住まいの地域などに応じて使い分けましょう。
青白
広く一般的に用いられる水引で、お通夜・葬儀・法事・法要問わず香典を包む際に用いられます。
あまり細かいことを気にしない人であれば、お布施を包む際にも使われますが、ランクとして一番下だということは覚えておきましょう。
こちらは、印刷されているタイプでは線が青色に見えることから、通称として「青白」と呼ばれているようです。
黒白
黒白の「印刷されていない」水引があるデザインで、用途は青白と同じですが、やや格式が高くなります。
神道の玉串料などを包む際にも用いられ、五十日祭(仏教の四十九日)・一年祭(仏教の一周忌)までが時期になります。
双銀
黒白よりも格式が高く、仏教・神道の葬儀等に用いられるのはもちろん、お布施・戒名料を包むのにも用いられます。
このあたりになると、一般人の多くは使い分けを知らないため、パッケージされている袋に書かれた金額の目安などを参考に購入することが多いようです。
黄白
関東ではあまり見られませんが、主に関西で一周忌以降の法事・法要の香典を包むのに用います。
神道で用いるのも差し支えありません。
黄色という色を選ぶのは、日本に古来から伝わる色のランク付けによるものです。
黄色は黒よりも一つだけ格の高い色とされていることから、深い悲しみから一段明けたことを示しています。
包む金額で選ぶ
多額の香典を包む場合、やはりどこでも手に入るような袋では気が引けるものです。
逆に、仰々しい袋に少額の香典というのもアンバランスに感じられますから、金額に応じた袋を選ぶことが大切です。
封筒形
水引が印字され、中袋がないものです。
手に入れやすく簡素な構造となっていることから、金額としては1,000~5,000円ほどが妥当なところです。
多当折り(たとうおり)
折りたたむようにして中袋を収納するタイプの香典袋で、もともと献上品・大事なものを包む用途で用いられていた形式です。
金額としては10,000円以下まで対応しますが、郵送時は水引が邪魔になることもあり、金額問わず印字されたものを送ります。
ちなみに、手渡しの場合は水引に応じて金額も変わり、黒白・黄白は10,000円以上・双銀は30,000円以上となります。
故人の信仰していた宗教で選ぶ
香典袋の中には、何らかのモチーフとなる絵柄が印刷されているものがあります。
これらを使う場面は、主に宗教別に分かれています。
仏教のみ使えるもの
香典袋の表書き・水引が印刷されていて、水引の下部に蓮の花が印刷されているものは、仏教で用いられます。
仏教世界では「極楽に蓮の花が咲いている」と考えられており、極楽へ生まれ変わる人の心も表しています。
キリスト教のみ使えるもの
香典袋に十字架が印刷されているものは、キリスト教に用いられます。
また、表書きには御花料と印字されています。
十字架が印刷されている場合、水引はないデザインのものが見られます。
特に宗教を選ばないもの
喪主の宗教がよく分からない場合は、水引が印字された香典袋を金額に合わせて選ぶのが無難です。
10,000円未満は封筒形・10,000円以上は多当折りを選べば確実です。
この記事のまとめ
葬儀に参列する場合、どうしても香典の金額ばかりが気になって、肝心のお金を入れる袋に関しては無頓着になりがちです。
もちろん、お金は気持ちの問題ですから、相場がどうあれ自分にできる範囲で包むことになりますが、やはり受け取る側の気持ちも考えたいところです。
厳密に言えば、卒塔婆をお願いする場合に使うもの・御車代を包む場合に使うものなど、いくつかイレギュラーケースがあります。
しかし、基本は金額や法事・法要に応じて選ぶことさえ覚えておけば、大きな間違いは起きないものと考えてよいでしょう。