お墓参りについての基本をおさらい。
する意味や時期と時間帯や服装や作法など基本のマナー
日本人にとって、お墓は心のふるさとです。
お墓参りは、自分を生み出してくれた先祖に感謝する、大切な時間でもあります。
しかし、残念ながら多くの日本人はお墓参りの本来の意味を知らなかったり、そもそもお墓参りの習慣自体が形骸化してしまったりと、次第にお墓参りから縁遠くなってきているのが現状です。
価値観の多様化から、時間帯や服装・作法に関する決まり事を知らないまま、お墓参りをしている人も少なくありません。
この記事では、日本におけるお墓参りの基本をおさらいします。
何となくうろ覚えになっているところを中心に、お墓参りをする意味からマナーまで、気を付けたい点をまとめました。
日本人がお墓参りに熱心な理由
世界的に見ても、日本人はお墓参りに熱心な国民です。
江戸時代から続く檀家制度にも一因はありますが、もっと古い時代から埋葬の習慣は確認されているため、死者の霊を弔う感覚は長年にわたり日本列島で継承されてきたものと推察されます。
ご先祖様や故人とつながることを大切にする文化
よく「ご先祖様に申し訳が立たない」などとドラマなどで話しているのを見かけますが、かつては先祖に迷惑をかけない・周囲に迷惑をかけない道徳が、日本人の美徳とされてきました。
自分が今あるのはご先祖様のおかげだという意識を、その時代を生きる人々が持ち合わせていたのです。
とはいえ、江戸時代のお墓は個人・夫婦単位というのが一般的で、先祖代々墓というものがあったわけではありません。
家族・親族のつながりが強調され始めたのは明治維新以降の話で、国家というものに対する意識が少ない国民に対し、後々の富国強兵政策への足掛かりとしてお墓を利用したという考え方もできます。
その一方で、沖縄の門中墓のように、父方の親族がお墓を管理する大々的な規模のものも存在しており、日本のお墓と一口に言っても実に様々な文化があります。
現代では歴史の名残も薄れ、純粋にご先祖様・故人をお祀りする気持ちからお墓を建てる人がほとんどです。
埋葬の習慣は縄文時代から存在していた
現代のようなお墓ではありませんが、埋葬の習慣自体は縄文時代から存在していました。
合祀型のお墓で、成人と子供が別々に埋葬されていた形跡があります。
縄文時代は、遺体を穴の中に埋葬するスタイルを取っていて、棺を用意するような習慣はありませんでした。
ただし、子供は土器の中に入れて埋葬されることもあり、何らかの宗教観があったものと推察されます。
時代が変わると、鎌倉時代以降には仏教が庶民にも浸透し始め、火葬の概念も広まりました。
ただ、この流れは江戸時代でいったん土葬へと移り、輪廻転生を信じる仏教の影響からか、土饅頭(どまんじゅう)と呼ばれる土で盛り上げた墓が主流となりました。
武士階級は、より丁寧にお墓を祀るため、卒塔婆や墓石をお墓の上に設置していました。
やがて、その風習は一般階級にも広まりました。
無意識のうちにご利益を求めているケースも
明治維新・敗戦を経て、日本では土葬から火葬へと埋葬方法が変化し、お墓の仕組みも変わっていきました。
菩提寺の敷地だけでなく、市営墓地のように比較的安価で利用できる土地も生まれ、地価が高い一部地域を除いては、故人・ご先祖様のお墓を建立するハードルが低くなりました。
しかし、核家族化が進む中、先祖代々のお墓を維持することに疑問を感じる世代も増え、跡継ぎの問題などから合祀や永代供養という方法を選択するケースが増えてきました。
また、一部の占い・スピリチュアルブームの影響を受け、ご先祖様のご利益を得る目的からお墓を建立するケースも見られるようになりました。
もともとは、ご先祖様・故人への感謝や冥福を祈り建立されていたお墓ですが、現代では次第に世の中の事情・目先の利益に存続が左右される状況となっています。
お墓を建立する前に、まずはお墓がご先祖様・故人に祈りを捧げるための対象であることを、きちんと理解しておきたいものです。
お墓参りにふさわしい時間帯や服装について
街灯が夜を明るく照らすようになってから、様々なイベントが昼夜を問わず行われるようになりました。
お墓や納骨堂の中には、24時間お参りができることを売りにしているところもあり、ライトアップされた夜のお墓はとても幻想的です。
また、価値観が多様化したことにより、お墓参りに着ていく服装にも変化が見られます。
法事・法要でない限りは、屋外ということもありカジュアルな服装が許されています。
しかし、お墓参りをすべき時間帯や、お墓参りにふさわしくない服装というのは、現代でも守るべき常識として存在します。
続いては、お墓参りにふさわしい時間帯・服装について、常識としてとらえられている範囲を改めてご紹介します。
夕方から夜にかけてのお参りは原則NG
原則として、お墓参りは日中に行うもので、夕方から夜にかけてのお参りはNGとされています。
これは、夕方や夜はどうしても暗くて見通しが悪くなり、ちょっとしたことでケガをしてしまったり、お墓の掃除が不十分になってしまったりするおそれがあるからです。
24時間参拝可能な墓地であれば、墓地自体がライトアップされていますから、仕事が終わってから軽くお墓参りを済ませたいなら問題ないかもしれません。
しかし、墓地・霊園の多くは開園時間が決まっていて、全ての墓地が24時間対応であるとは限りません。
防犯という点では、夕方や夜の暗い時期に一人でお墓参りをすると、何らかのトラブルに巻き込まれるおそれがあります。
そこで、どうしても夜にお参りをしたい場合は複数人で向かいたいところですが、夜はちょっとした話し声も騒音に感じられてしまうものですから、迷惑にならないよう心掛けたいところです。
また、夜は不浄霊・未成仏の霊を呼んでしまうのでやめた方が良い、という声もあります。
普段から霊感が強いと自覚している人は、できるだけ控えた方が賢明です。
雨が降っている状況も避けたい
故人が亡くなった日に雨が降ると、しばしば故人を失った悲しみから「涙雨」と言われることがあります。
葬儀の場合は日程が決まっているので仕方がありませんが、少なくともお墓参りに行くのであれば、雨が降っている状況は避けるべきです。
墓地は全てがコンクリート・アスファルトで整備されているわけではなく、砂利が敷き詰められていたり、土がむき出しになっていたりすることも珍しくありません。
そのような中で雨が降っていると、地面はぬかるみ水たまりもでき、足元がおぼつきません。
万一、足を滑らせてお墓に当たってしまうと、ケガをするだけでなく墓石を壊してしまうかもしれません。
不慮の事故を防ぐためにも、雨が降っている時はお墓参りを控えましょう。
華美にならない普段着でお墓参りを
法事・法要の場合を除いて、お墓参りは普段着で問題ありません。
しかし、一般的なマナーとして、極力華美にならない服装を意識することが大切です。
夏場はどうしても露出が多くなりがちですが、あくまでも供養が目的なわけですから、まるで遊びにいくような恰好は避けた方が賢明です。
普段着の中でも、落ち着いた色合い・デザインを選ぶことが大切です。
また、屋外でお墓参りをするわけですから、できるだけ露出を避けることも忘れないようにしましょう。
オシャレのためにミニスカートやハーフパンツを履いても、おそらくお墓参りではケガをするリスクが高くなるだけです。
夏場の暑い時期であっても、できるだけ袖のある服・足元を露出しない服装を意識しましょう。
覚えておくと安心!お墓参り時にうろ覚えがちな作法とマナー
お墓参りは、法事・法要の場面を除いて、あまり宗派を意識する機会がないかもしれません。
そのせいか、どうしてもうろ覚えで終わってしまう作法やマナーは少なくなく、誰かにとがめられるケースも少ない傾向にあります。
とはいえ、友人・知人の墓を訪れる際に、どの宗派にも共通したマナーを守らなければ、礼儀知らずと思われてしまうかもしれません。
ここからは、主に仏式のお墓に適用される、うろ覚えがちな作法とマナーについてご紹介します。
火を吹き消さない
屋外のお墓では、風が強いこともあって、ロウソクに火をつけるのも一苦労というケースは珍しくありません。
そこで、お墓にあるロウソク立てには、風の影響を受けないよう「風よけ」がついています。
その状態から火を消す場合、身内だけならついつい吹き消してしまいそうなものですが、これはご先祖様や故人に穢れ(けがれ)を吹きかけるようなものとして忌避されています。
手やうちわなどで扇ぎ、息を吹きかけずに火を消すことがマナーです。
もちろん、お線香の火も同様です。
お墓に水をかけるより、軽く絞った雑巾やスポンジを使う
お墓に水をかけてから雑巾で水を拭き取る掃除のやり方は、古くから多くの家庭で行われてきました。
しかし、かけた水を十分に拭き取れなければ、かえって墓石が汚れてしまうこともあるという理由で、お墓に水をかける行為を嫌う人もいます。
もし、掃除を丁寧に行いたいなら、お墓に直接水をかけずに、手桶に汲んだ水を使う方法をおすすめします。
手桶の水に雑巾やスポンジをひたし、軽く絞ってから拭き始めます。
汚れは手桶の水で洗い、汚くなったら取り換えます。
最後に乾拭きすれば、墓石が見違えるほど輝きを取り戻すはずです。
より丁寧に行いたいなら、古い歯ブラシなどを使って文字の汚れを落としましょう。
また、水を含んだ雑巾などで拭く前に、ホコリを払うと汚れの落ちが違います。
順番は血縁に注意
身内だけだとあまり意識しませんが、お墓参りにも順番があります。
正式な順番としては、自分の姓のお墓参りを優先することが大切です。
父方・母方・実家という順に済ませるのが基本で、どうしても時間の都合がつかないようであれば、父方を優先しましょう。
また、家や宗派によってはお墓参りの作法自体も違うため、御供えの順番が違う場合もあります。
初めてお参りする際は、事前に確認することをおすすめします。
この記事のまとめ
お墓参りや埋葬の習慣は、日本でも古くから存在しており、過去には縄文時代から埋葬の習慣が確認されていました。
時代の変化とともに、お墓参りに求められることも変わりつつあり、現世利益を目的とした建立も見られるようになりました。
また、24時間お参りが可能な墓地ができるなど、比較的お墓参りに関するマナーがゆるくなったことで、自由度も高くなってきています。
しかし、その本質は変わることはなく、あくまでもご先祖様・故人の冥福を祈るためにお墓はあります。
古いルールがおざなりにされがちな現代だからこそ、正しい由来を知り、恥をかくことのないようにしたいものですね。