遺言書の作成相談は誰にすべきか?
弁護士・司法書士・税理士で相談内容も変わる?
本来、遺言書は自らの意志を残された家族に伝えるために用意するものです。
しかし、現代では主に遺産相続の観点から遺言書が重要視されているため、遺言書の内容を確実に実行してもらうためにどうすればよいのか、専門家に相談する人も増えてきています。
具体的には、弁護士・司法書士・税理士といったプロフェッショナルに対し、それぞれの事情から相談するケースが多いようです。
実際のところ、得意分野がそれぞれで異なるため、誰に・何を・どこまで相談するのかについては、事前に考えておく必要があります。
せっかく依頼するなら、自分が相談したいと考えている分野に詳しい人に相談した方が確実です。
この記事では、遺言書の作成相談を依頼する士業について、主に弁護士・司法書士・税理士に絞り、その特徴をご紹介します。
遺言書に関すること全般を相談するなら弁護士を選ぶ
遺言書を作成・公開することで起こる問題につき、全般的に解決して欲しいと考えている人は、弁護士を選んだ方が確実です。
文書の作成そのものだけでなく、相続人がそれを読んだ後で起こりうる問題もカバーしてくれるため、何らかのトラブルが想定される場合はメリットの大きい選択肢です。
弁護士は、法律事に関する全般を請け負ってくれる
弁護士が遺言書について対応できる範囲は幅広く、遺言書に関する作成相談から、作成後のサポートまで請け負ってくれます。
また、相続財産について遺言者が十分に把握できていない場合であっても、財産調査や分割が難しい財産の分配方法などをアドバイスしてくれるため、依頼者にとっては非常に心強いでしょう。
幅広い分野をサポートしてくれるため、一人に対して段階的に相談を持ち掛けることもできます。
まずはかんたんな相談から始めて、実際に遺言書を作成してみて難しければ公正証書遺言作成を代行してもらえますし、自宅で保管するのが不安なら、自分の代わりに遺言書の保管を依頼することも可能です。
もし、相続人やその近辺に遺言の執行をお願いできるような人材がいないのであれば、弁護士に遺言執行者になってもらうこともできます。
弁護士に依頼できる内容はたくさんありますから、遺言書の作成から保管・開封まで一貫して依頼したいと考えている人は、弁護士を選んだ方が間違いはないでしょう。
あらゆるアドバイスに対応でき、万一訴訟になった場合の対応も依頼できる
得意分野にもよりますが、弁護士が対応できる幅は広く、あらゆる相談に対応できます。
正しい法律知識にのっとった文章の作成もその一つで、依頼人の利益を第一に考え、日常の言語を法律文書に翻訳する手助けをしてくれます。
弁護士の強みとして、数多くの判例を理解している点があげられます。
試験で要求される古い判例はもちろん、業界で日々積み上げられていく類似の案件につき、なぜ問題となって裁判にまで発展したのか・結果はどうなったのかなど、詳しい情報を現在進行形でアップデートしています。
自分一人で悶々と悩むよりも、専門家に相談した方がはるかに効率的ですから、漠然とした悩みがある人ほど弁護士に依頼した方がスムーズです。
後日、家族間でもめごとが起こり、何らかの理由で訴訟に発展してしまった場合であっても、弁護士であれば裁判の対応も依頼できます。
報酬はどうしても高くなりがち
法律事のほとんどを依頼できる分、弁護士にサポートを依頼すると報酬が高くなりがちな点は否めません。
単純な法律相談だけなら数千円で済みますが、実際に遺言書の作成をサポートしてもらったり、遺言書を保管してもらったりすると、費用は10~20万円を想定しておかなければなりません。
さらに、遺言執行者をお願いした場合、財産の額に応じて報酬も変動します。
弁護士に全面的にサポートを依頼するなら、報酬の問題は避けられないため、事前に信頼できる家族と相談するのがよいでしょう。
争いの火種が少なく、リスクを最大限減らす文章が欲しいなら司法書士を選ぶ
弁護士は、守備範囲が広い分だけ、何もかも頼もうとするとそれだけ費用が高くつきます。
もちろん、家族仲が悪いなどの状況であれば、有事を想定して弁護士を立てるのは自然なことですが、もめる心配が少ないなら、別の専門家として司法書士を選ぶという選択肢もあります。
司法書士は登記に強く、特に不動産に強いケースは多い
司法書士の仕事は、裁判所・検察局・法務局といった、法律に関係する国家機関と縁が深いため、一般人には馴染みが薄いかもしれません。
しかし、実際には登記に関する仕事の割合が多いことから、日常生活にも密接に関わっています。
特に、不動産登記の仕事を司法書士に依頼する人は多く、不動産に関する知識が豊富な司法書士に遺言書のことを相談したいと考えるケースはよく見られます。
具体的には、不動産の分配方法・財産目録の正確な記載など、もれなく遺産の内容を記したいと考える人なら、相談する価値は十分にあります。
もし、相続する遺産が不動産以外になかったり、投資用の不動産を複数持っていたりするような場合は、司法書士に話を通した方が早いかもしれません。
実は、民法にも精通しているのが司法書士
法律相談と聞くと、多くの人は弁護士を思い浮かべるかもしれません。
もう少し身近なものだと、車を購入した時の手続きで頼る行政書士などがあげられるでしょう。
しかし、司法書士はその試験範囲の事情から、極めて深い民法の知識を持っています。
司法書士試験の科目別問題数・配点を確認すると、53問中20問と配点が高く、試験内容も重箱の隅をつつくような問題が出てくるため、民法に関しては非常に細かい部分まで知識を持っています。
司法書士は、所有者の権利関係を明確に定め、トラブルを未然に防ぐ能力に長けています。
得意分野の一つとされる不動産登記では、土地の境界線を当事者間で確認するなど、合意に関する法律文書を作成する経験も豊富ですから、遺産相続以外の面で相談事がある場合も頼りになる存在です。
弁護士に比べると費用は安く抑えられるが、依頼者の代理人として交渉はできない
司法書士に依頼する際の利点は、弁護士に比べて費用を安く抑えられる可能性がある点です。
ただ、これは同じ仕事を頼んだ場合に費用が安く抑えられるというよりも、弁護士でなければできないことがある、と言い換えた方が分かりやすいでしょう。
弁護士は、依頼者の代理人として、遺産分割協議における助言・他の相続人との交渉を行うことができます。
しかし、司法書士は遺言執行者になることはできても、交渉事の矢面に立つことはできません。
よって、争いが起こるリスクは少ないものの、相続対象や遺産が多い場合に司法書士を選ぶのが、賢い選択肢と言えるかもしれません。
会社経営に伴う相続問題を解決したいなら税理士を選ぶ
弁護士や司法書士に比べると、相続に関することで税理士に相談する人は少ないかもしれませんが、決して税理士が相続問題の相談相手としてふさわしくないわけではありません。
むしろ、会社経営に伴う相続問題を解決したいのであれば、税理士に遺言書の作成相談を依頼することは理にかなっています。
相続税に関することは、税理士が強い傾向にある
税理士は、税金に関するプロフェッショナルなので、相続税に特化した税理士も少なからず存在しています。
そのような税理士に依頼した場合、具体的な実績がある事務所を選べば、安心して相続税のことを相談できるでしょう。
相続税の細かい計算に加え、確定申告も税理士の独占業務に含まれますから、法人レベルの遺産を相続させる必要がある場合は、あえて税理士に相談した方が話も早いでしょう。
もちろん、それを踏まえた遺言書作成のアドバイスを行ってくれるはずですから、トータルバランスで見て弁護士よりもお得になるはずです。
生前贈与・事業承継を考えているなら税理士は強い
税理士に相談する場合、その真価を発揮するのは、生前贈与・事業承継を考えている場合です。
もともと、税理士は法務よりも税務に詳しい職種なので、会社を経営している人が相続を考える場合、やはり顧問税理士に相談するケースが多いようです。
会社がからんでくると、単純に家族・親族にあてた遺言書だけでは事足りず、税務の面で有利になるようなプランを考えたり、節税の側面から事業承継の戦略を練ったりと、個人相手の相続とは異なる見識が必要になってきます。
そこで、数多くの事例を見ている税理士に相談すれば、有効な対策を打ち出して、自分の死後についてあれこれ悩む時間を短縮することができます。
なお、事業承継に関しては、法律面でのサポートも必要になりますから、税理士だけでなく弁護士にも相談しておくと確実です。
税理士の誰もが相談相手としてふさわしいわけではない
税理士に相続問題・遺言書の作成相談を依頼する場合、一つだけ注意したい点があります。
それは、税理士の誰もが相続問題の相談相手としてふさわしいわけではない、という点です。
税理士の守備範囲は各事務所ごとに異なり、基本的には業種・職種問わず税務申告を代行してくれますが、得意分野は各税理士で異なります。
そのため、相続の相談をするのであれば、相続税や相続問題に詳しい税理士に仕事を依頼するのが基本です。
近所にある税理士を探し回って判断するのではなく、得意分野に絞ってWeb検索・資料請求などを行った方が、お目当ての税理士にたどり着ける確率は高くなるでしょう。
もちろん、顧問税理士が詳しい分野なら、普段の業務の延長として相談することをおすすめします。
この記事のまとめ
遺言書について相談する法律のプロフェッショナルは、弁護士ばかりとは限りません。
司法書士・税理士など、得意分野が異なる士業に相談することで、弁護士よりも安価に確実な遺言書を作成できる可能性があります。
失敗しないポイントは、自分たちがどのような状況下で遺言書を準備しようとしているのか、きちんと自覚することです。
税務に不安のない人が税理士に相談しても、希望通りの遺言書を作成できないことは容易に想像できるでしょう。
専門家に依頼する場合、自分が依頼したい内容・実現したいことをまとめた上で、仕事に取り掛かってもらうことが大切です。