自筆証書遺言が無効となる場合はどんな時か?
注意しておくべき点や知っておくべきポイントとは

  • 2024.03.19

相続・遺言

本来、遺言書は自分の言葉で家族に向けて内容をまとめるものです。
法的効力を持たせるために、公正証書遺言の方法を選ぶこともできますが、自分自身の気持ちをきちんと伝えるために、手書きの自筆証書遺言を選ぶ人は一定数存在しています。

しかし、遺言書には財産・身分に関することを正確に伝える意味合いがあることから、正しい形式で書かれていることが証明できなければ、遺言書としての効力を失います。

万一、遺言書が無効になると、せっかく自分の意志を文章にした意味がなく、遺族にも要らぬ手間をかけてしまうでしょう。

この記事では、そんな悲しい結果を迎えてしまうことを防ぐため、自筆証書遺言が無効となってしまうケースや、作成時に注意すべきポイントをご紹介します。

自筆証書遺言の定義と、無効になるおそれがあるケース

まずは、自筆証書遺言とは何なのか、あらためて定義を確認するとともに、どのポイントに問題があると無効になってしまうのかをお伝えします。

最低限気を付けたい部分は決まっていますから、所定の書き方を理解して、一度下書きなどで実践することが大切です。

「自筆」証書遺言なので、自分が書かないと成立しない

現代では1家に1台のみならず、2~3台のパソコンがあることも珍しくありません。
そのため、自筆証書遺言を「自分の言葉で作成した文章」として理解している人の中には、Wordなどの文書作成ソフトを使って遺言書を作成しようとするケースもあるでしょう。

しかし、ここでいう自筆には、タイピングによる文書作成は含まれません。
ボールペン・万年筆を使って、自分の文字を紙に書いて、遺言書を作成しなければならないのです。

きちんと義務教育を受けた人にとっては、特段問題に感じられないかもしれませんが、自筆というのは遺言書における大きなハードルになっています。

戦前に生まれた方の中には、文字を十分に教わらないまま大人になってしまった人も少なくなく、預金通帳からATMを使ってお金を引き出すことさえままならない人もいます。

また、文字を書くという行為は利き手を使いますし、文字を忘れたら辞典などを引いて正しい言葉を選ぶ手間もかかります。

若いうちは気にならないようなことが、年齢を重ねた人にとって苦痛になるケースは多いため、自筆に不安を感じた人が公正証書遺言を選ぶ場合もあります。

いずれにせよ、自筆証書遺言を作成するためには、遺言者本人の手書きが必須であることを第一に押さえておきましょう。

ここは絶対にミスしない!注意したいポイント5点

自筆という最低限のルールを理解した上で、続いてはミスがそのまま無効につながるおそれのあるポイントについてお伝えします。

一つひとつを見ていく限り、失敗する要素はなさそうに思えますが、意外と忘れていたり勘違いしていたりするケースがありますから、遺言書を執筆・清書する場合は特に気を付けたいところです。

日付

自筆証書遺言は、遺言者が作成した日にちを記す必要があります。
もちろん、こちらも自筆でなければならず、例えばスタンプ印のようなものを使うと無効になります。

ビジネスメールなどでよくある「平成30年10月吉日」のような、日付を特定できない書き方をするのも無効です。吉日がいつを意味しているのか、第三者が理解できないからです。

ただし、漢字で「末日」と日にちを特定している場合は問題ありませんし、「平成30年11月31日」のように単なる書き間違えに過ぎないレベルの間違いであれば、日にちを特定して判断することもあります。

とはいえ、誰の目にも明らかになるよう、日にちは必ず何年の何月何日なのかを正確に記載することが大切です。

署名

自分の名前なんだから、さすがに間違えることはないだろうと思う人もいるでしょう。確かに、遺言者が自分の名前を間違えるケースは非常にまれだと考えられますが、以下の2点が問題となります。

  • 自筆で署名していること
  • 連名で署名していないこと

日付のスタンプ印と同じ理由ですが、会社などを経営している方は、社名・住所・代表取締役の名前が一度に押印できる「住所印(社版・社判)」というハンコを持っています。

面倒臭いからこれを押してしまおうと考えると、残念ながらその遺言書は署名が自筆でないため無効となります。

また、遺言は遺言者一人で行うもので、いくら夫婦・兄弟姉妹の仲が良かったとしても、連名での署名は認められません。これは民法第975条でも定められているポイントですから、署名の際は十分注意が必要です。

押印

遺言書を作成したら、必ず押印しなければなりません。
遺言書に署名をした後、その署名の横もしくは下に押印すれば認められます。

また、遺言書が複数枚にわたって書かれている場合は、書類が一連の内容であることを証明するため、契印を押します。

契印を押すと、遺言書の一部が抜けていた場合、印影がいびつな形になってしまうので、書類の枚数や内容に不審な点があるのではないかと判断できます。

こうすることで、遺言書の一部が紛失・あるいは意図的に抜かれていたとしても、その事実に気付きやすくなります。

ただし、万一契印を忘れてしまったとしても、それだけで遺言書としての効果が失われるわけではありません。

判例を見る限り、数枚の遺言書が一通のものとして確認できれば、遺言は有効となっているため、あくまでも信頼性を高める意味で契印が必要なのだと覚えておきましょう。

契印の押し方ですが、冊子として作成している場合は、それぞれのページのつなぎ目に捺印して、関係性があることを示します。

数枚にわたりバラバラの状態で保管する場合は、それらを一部ずつずらした状態で、複数枚が所定の位置で重なると印影が見えるよう捺印します。

変更箇所

自筆証書遺言はボールペンもしくは万年筆で書くので、記載した内容に誤りがあった場合、消しゴムで消すことができません。

そのため、文章を修正する場合は、文字に訂正線などを引いて正しい内容に修正したことが分かるようにしなければなりません。

まず、文章を訂正した場合は、その場所に押印して正しい文字を記載します。
その後、「どこ」を「どのように」訂正したのか、余白に書かなければなりません。

この時、訂正は二重線を引いて行い、その上に押印します。
続いて、その横もしくは下に、修正したことが分かるよう、正しい文字を記載していきます。

訂正内容の記載は、主に遺言書の末尾など、十分なスペースがあるところに書きます。具体的には「10行目4文字削除3文字追加」など、どの行の文字を加減したのか記します。

ただ、この手続きは非常に面倒ですから、よほど軽微なものでない限りは、一度書き直してしまった方が楽でしょう。もし、数枚にわたり書き直しを行った場合は、残しておくと紛らわしいため、過去のものを速やかにシュレッダーにかけることをおすすめします。

文章の表現方法

遺言書の内容は、簡潔明瞭が原則です。
遺言者が亡くなった後、家族や遺言執行者がきちんと意味を理解できるような構成にしなければ、後々混乱を招くおそれがあります。

多少の誤記であれば、社会通念上の合理的な解釈に応じて読み解くこともできますが、まったく意味の分からない表現・一部の人にしか分からない暗号などが書かれていると、読み手は混乱を極めます。

秘密にしたい内容があるなら、事前に弁護士など法律の専門家に相談して、別の方法を模索しましょう。また、文章構成能力に自信がないなら、公証人を介して公正証書遺言を作成した方が確実です。

遺言が無効になってしまった場合、その後どうなるのか

ここまで、遺言が無効になってしまうポイントについて、いくつかお伝えしてきました。続いては、万一遺言が無効になってしまった場合、その後はどのような形で遺産相続を進めればよいのかについてお伝えします。

基本的には法定相続分で分配する

用意されていた遺言が、何らかの理由で無効になってしまったら、その遺言に何らかの解釈の余地があるかどうかを確認します。

しかし、家族全員が納得のいく形で解釈ができない内容だった場合・すでに相続の対象者がいない場合などは、法律にもとづいて法定相続分での分配が行われます。

仮に、遺言者に子供A・Bという二人がいて、そのうちの一人には子供C・Dが二人いたとします。

そのような状況で、遺言者は全財産を子供Bに相続させるという遺言を遺していたのに、すでに子供Bが亡くなっていたら、遺産は法定相続分にもとづいて分配されます。

よって、子供Aは遺産の1/2を、子供C・Dはそれぞれ1/4を取得することになります。

相続時は遺留分に注意

先の例で、もし子供Bが生きていた場合は、遺族全員が遺言の内容を認めているなら子供Bに遺産が相続されます。

しかし、日本の法律では相続人が最低限の遺産を確保するために「遺留分」が設けられており、兄弟姉妹以外の相続人には、相続財産のうち一部を取得できる権利があります。

こちらを無視して遺言の内容を一方的に執行しようとすれば、ほぼ間違いなくトラブルが発生します。相続人同士のいざこざを発生させないためにも、遺言を遺すなら必ず遺留分に配慮して、できるだけ平等な内容をまとめましょう。

遺言に納得できない遺族がいれば訴訟になる

遺言の内容に複数の解釈ができる部分があったり、遺言者の生前の状況から遺言を書けるような健康状態ではないことが明らかだったりする場合、一部の相続人が「遺言書無効の訴え」を起こす可能性があります。

こうなると、かつての兄弟姉妹・父親もしくは母親との関係に大きな亀裂が入ることは必至であり、争いは避けられないものと考えてよいでしょう。

きちんとした内容の、自筆であることが誰の目にも分かる遺言書が書けていたなら、このような問題は起こらなかったかもしれません。

遺言書が無効になってしまうと、それが引き金となって悲しい争いが生まれてしまうこともあるのです。

この記事のまとめ

自筆証書遺言は、その気になれば自分だけで作成を終えることができる反面、法的効力を持たせるためのルールに沿って書かれたものでなければ、無効になってしまうおそれがあります。

しかし、守るべきルールは一部を除いて非常にかんたんで、文字を難なく書ける人にとっては、注意すれば難なくルール通りに作成することができるでしょう。

気を付けたいのは、文字の加減や表現方法で、遺言書に関する知識がない人にとってハードルが高いと思われるものもあります。少しでも出来上がったものに不安があるなら、遺言書の添削サービスなどを利用して、誤った点を修正するのがよいでしょう。

  • 公開日:2024.03.19

テーマ:相続・遺言

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