実は多く今も増えてきている「無宗教葬」
おさえておきたい基本とメリットやデメリット
日本人にとって一般的な葬儀のスタイルは、お通夜・告別式の後で火葬場に向かうという、大手斎場の一連の流れだと思います。
また、日本の葬儀で大半を占める宗教は仏式であり、お坊さんにお経をあげてもらうのが一般的です。
しかし、時代の流れなどもあってか、仏教は自分に馴染みのない宗教だから、仏教も含め特定の宗派にこだわることなく、無宗教で葬儀をあげたいと考える人も増えてきました。
今回は、葬儀の新たな選択肢「無宗教葬」について、基本的な事項やメリット・デメリットなどをご紹介します。
無宗教葬とは
無宗教葬と聞くと、神や仏に背を向けた葬儀のように思われるかもしれませんが、そこまで仰々しい覚悟を必要とする形態ではありません。
むしろ、きわめて自由度の高い、現代的な葬儀形態の一つと考えてよいでしょう。
あくまでも、特定の宗教に偏らない葬儀というだけであって、それ以上でもそれ以下でもありません。
まずは、基本的な認識を押さえましょう。
無宗教葬とは、宗派・宗教にとらわれない葬儀のこと
無宗教葬とは、仏教・神道・キリスト教など、特定の宗教や宗派にとらわれない形でセレモニーを行う葬儀のことです。
一定の形式は葬儀社等で用意されているものの、希望があればかなり自由度の高い葬儀を行うことができます。
この「特定の形式が定められていない」という点は、メリットにもデメリットにもなる部分で、葬儀を考えている人のイメージ通りに式次第を構成できる反面、一からイメージ通りの葬儀を作り込んでいかなければならないデメリットがあります。
後述しますが、やはり馴染みのないセレモニーに参加する場合、ホスト側がどれだけ相手に配慮できるかで、中身のあるものかそうでないかが決まってきます。
「無宗教葬だから自由で楽でいい」と考えている人は、おそらく期待を裏切られることになるでしょう。
決められた型がないということは、自由でもあり、不自由でもあるのです。
信仰する宗教がない人にとっては、手っ取り早く葬儀を済ませられる
参列者側との信頼関係があるなら、本当に簡素なセレモニーで式を終え、その後は宴会・パーティーのような席でまとめてしまうこともできます。
また、仏式の葬儀で行われるイベントを、全て行わないという決断もできるため、参列者側の負担も減らせます。
周囲の理解という点ではネックになりますが、故人の人柄をよく知っている人たちが集まるのであれば、トラブルになる可能性は低いでしょう。
逆に、ご年配の親族の数が多くなるものと予想されるなら、無宗教葬を行うにしても、セレモニーの内容は参加者に配慮した形で考えた方がよさそうです。
直葬は必ずしも無宗教葬になるとは限らない
無宗教葬と聞いたとき、中には「直葬」というスタイルを考える人もいるかもしれません。
お通夜・告別式をはさまずに、病院から直接火葬に移るというスタンスのため、ある意味では無宗教葬と同じ意味で考えられます。
しかし、直葬にもいくつかのプランがあり、火葬までのわずかな時間でお経をあげてもらうこともあります。
よって、直葬=無宗教葬という公式は、一概に成り立たないことに注意が必要です。
お坊さんを呼んでしまうと、死後の法要なども考える必要性に迫られる場合があります。
もともと法要は行うつもりだったのならともかく、本人が完全な無宗教での弔いを希望していたのなら、プランの選定には注意が必要です。
無宗教葬のメリット
続いては、無宗教葬を選んだ場合のメリットについてお伝えします。
一般葬で考慮しなければならない点のほとんどが省かれるため、喪主側も参列者側も気負いなく参加できる点が魅力となっています。
自分の意向を最大限反映できる
無宗教葬では、一般的な葬儀で行われてきたセレモニーの流れを全く無視して、式次第を考えることができます。
言い換えれば、故人・喪主の意向を最大限反映できるため、人によっては退屈に感じられたプログラムを全面的に排除できます。
これは、ある意味無宗教葬ならではの特権で、参列者の大多数が詳細な意味を理解できない「お経」を丸ごと省けるというメリットがあります。
もちろん、あくまでも仏教的価値観にこだわりがない人向けのメリットであり、お経が聞こえないと成仏できるか不安だと感じる人は、その限りではありません。
ちなみに、無宗教葬だからといって、お経をあげることができないというわけではありません。
無宗教葬を選ぶ段階で、多くの人がお坊さんやお経といった仏教を感じさせる要素を省いているだけであって、その点は誤解のないよう注意が必要です。
相対的に見て費用が安い
無宗教葬を選ぶ場合、葬儀社によって多少の違いはありますが、ある程度パターンが決められていてプランを選びやすいという声も聞かれます。
そして、それらのプランは他の形式・特に仏式に比べて総額が安く設定されており、費用面での負担が少ない点でメリットになっています。
プランによっては30万円台から選べ、納骨時やその後の法要なども任意で選べる(もしくは選ばなくてもよい)ため、少ない費用でも何とか形になる葬儀をあげたいと考える人にとってはおすすめです。
仏式の価値観を葬儀に持ち込まないのであれば、一周忌・三回忌などのイベント自体が発生しないケースも考えられます。
より細かく考えていくと、納骨後の仏壇の準備やそれに伴う法要も含め、行うかどうか柔軟に決められます。
仏壇を買うにしても、写真立て程度のサイズ感から決めることができますから、高額の出費を必要としません。
予算の観点からも、無宗教葬は魅力的なのです。
一般的な葬式では選べないような会場を選べる
無宗教葬の最大の特徴は、一般的な斎場で行う葬式と違い、会場を自由に選べる点が特徴です。
会場自体に制約が設けられている場合もありますが、その多くは参列者にとって抵抗を感じさせないものがほとんどです。
火葬を先に終えたあと、ホテルの宴会スペースなどを借りて「お別れ会」を行う場合などは、親しい人たちだけで行うのが一般的です。
このとき、参加にあたり厳密なルールが設けられていることは少なく、一般的な葬儀に比べてパーティー感覚で参加できます。
もちろん、斎場だからこそできる無宗教葬の形態もあり、音が響く会場で生演奏による音楽葬を行うこともできます。
故人が好きだったジャンルの曲をかけ、葬儀の式中に談笑するといったことが可能なのは、無宗教葬だからこそできることです。
会場ベースで希望を実現できる点では、無宗教葬は大きなメリットを持っています。
生前、特にこだわりが強い人だったなら、一般葬よりも無宗教葬の方が馴染みやすいかもしれません。
無宗教葬のデメリット
続いては、無宗教葬のデメリットについてご紹介します。
費用や自由度の面ではメリットが大きい無宗教葬も、葬儀の世界では新参者であることに変わりはなく、時として参加者に負担をかけてしまう点は否めないようです。
親族含め、参加者がどう動けばよいか戸惑う
無宗教葬は、いわゆる「フォーマット」がない中での葬儀となります。
よって、ホスト側がどうやって式を構成し、どのように参列者を飽きさせないかが、一般葬以上に大事です。
仮に故人が音楽葬という形を取り、1970年代のアニメが大好きだったとして、そのアニメの主題歌だけをかける葬儀だったら、アニメを知らない参列者は正直どんな顔をして参列すればよいのか分からないでしょう。
逆に、クラシック音楽が大好きだからといって、モーツァルト・ベートーベンばかりをかけていても、おそらく参列者の方が眠りについてしまうはずです。
親族についてもそれは同様で、いきなりよく分からない世界観の葬儀に参列しても、どう振舞えばよいか戸惑いを隠せないことが考えられます。
無宗教葬を行う際は、参列者・親族など、その場にいる人が退屈しない・不安にならない葬儀をプロデュースしなければならないのです。
宗教的価値観に基づく習慣を断る場合もある
葬儀の席では、香典や御花料といったお金が動きます。
しかし、これらは一定の宗教的価値観に基づいて手渡されるお金のため、そもそも無宗教葬では受け取る必要がないケースも考えられます。
自費で全てのセレモニーを行い、参列者には純粋に楽しんで欲しいと考えてプログラムを組んでいたとしても、やっぱり香典を包んでくる参列者は後を絶たないでしょう。
また、その後の香典返しについてプランを練っていなかった場合、一からテーマに沿ったものを考える必要があります。
葬儀社側が用意しているものの中には、宗教観のない香典返しのラインナップも用意されていますが、やはり葬儀のコンセプトに合ったものを選びたいのが人情です。
ただ、100%葬儀のコンセプトに合うものを選べるかどうかは分かりません。
音楽葬であれば、例えば香典の額によってはCDなどを用意できるかもしれませんが、まとまった枚数を手配できないことも考えられます。
よって、もらった後の手間を考え、香典を遠慮するといった配慮が求められることになるでしょう。
このとき注意したいのは、せっかく足を運んでくれた参列者の気持ちをむげにしないよう、丁重に事情を説明してお断りすることです。
「お気持ちだけありがたく頂戴します」という一言で終わらせず、故人の意思や今回の葬儀に至った経緯を、しっかり参列者に伝えましょう。
周りに前例が少ない
無宗教葬の件数自体は年々増加傾向にあるものの、全体としては依然として仏式が圧倒的多数派であることは否めません。
そのため、周囲で無宗教葬を行った人に出会えないケースの方が一般的です。
前例が少ないので、実際にやってみて大変だった話や、参加してみた率直な感想などが十分に集まらない可能性があります。
また、事例などは葬儀社で確認できたとしても、そもそも一般的な事例にそぐわないオリジナルの葬儀を執り行うことを考えているわけですから、参考になる点も限られてきます。
無宗教葬を行う場合は、前例が少ない中でのプランニングを求められるため、葬儀社や家族・親族等との打ち合わせは入念に行っておきましょう。
この記事のまとめ
無宗教葬は、自由度が高い反面、周囲への配慮が求められます。
よかれと思って考えたことが、かえって参列者に誤解を招いてしまうことも考えられますから、色々な人の意見を取り入れながら準備を進める必要があるでしょう。
それだけに、しっかり必要なものを取捨選択して構成したセレモニーは、多くの人の心に残る式になるはずです。
限られた予算で、故人が満足し、参列者が感動する葬儀をあげたいと考える方に、無宗教葬はおすすめです。