当たり前に聞く「お盆」の基本をおさらい。
お盆の期間と迎え火や送り火など準備や行事について
お盆は、暑い夏の時期、家族・親族が一堂に会する時期です。
普段忙しくて実家に帰れずにいる人が、お盆休みを利用して帰省するケースはよく見かけます。
地元に帰ると、都会では見られなくなった風習も少なくなく、迎え火・送り火などは地方でも見かける地域とそうでない地域があります。
しかし、これらは日本の風物詩の一つであり、一般常識として覚えておくべきものでもあります。
今回は、お盆に関する基礎知識や、お盆に行われるイベント・行事についてご紹介します。
毎年お盆を家族・親族で迎えている人も、お盆にこだわらず帰省・墓参りをしている人も、復習のつもりでお読みいただければ幸いです。
お盆の時期・期間についておさらいしよう
誰もが知っている仏事のお盆ですが、全国的に見ると地域ごとにいくつかの傾向があり、時期や期間にも違いがあります。
ここでは、一般的にお盆とされる時期・期間について、お盆にまつわる独特の名称とともにご説明します。
そもそも、お盆とはどのような仏事なのか
お盆の習慣は、仏教における「盂蘭盆会(うらぼんえ)」という行事に由来します。
本来は、お釈迦様の弟子であった「目連(もくれん)」という人が、餓鬼道(がきどう)に堕ちて苦しんでいる母の供養を行ったという、盂蘭盆経の伝説に基づいて行われていた行事でした。
目連の母は、生前は他人のことを全く思いやることができなかったため、亡くなった後で餓鬼になり、死後の苦しみにさいなまれる状態となってしまいました。
そこで、母を苦しみから解放すべく、一生懸命供養を試みますが、うまくいきません。
困った目連がお釈迦様にお願いしたところ、それは「自分の母だけを供養しようとしたため」と諭され、当時で夏の修行が終わる時期・7月15日に僧侶を招いて、食べ物をふるまって供養すれば母は救われると教わります。
こうして、自分の身の回りの人だけでなく、餓鬼道のたくさんの人々を救うように心掛けたところ、功徳によって極楽往生を遂げました。
この言い伝えが現代にも伝わり、日本における祖霊信仰(ご先祖様を敬うこと)とつながった結果、お盆の習慣が生まれたと言われています。
時期としての「新盆」・「旧盆」の違いとは
現代の日本において、お盆の時期は大きく分けて2通りに分かれます。
7月15日を中心として日程が組まれる「新盆」と、8月13~16日の4日間で日程が組まれる「旧盆」です。
このように時期が分かれたのは、明治時代に太陰暦を太陽暦に切り替えたことが、直接的な原因とされています。
なぜそのようにしたのか、その理由は諸説ありますが、暦の国際標準化・官吏の給与削減などが主な原因として考えられています。
ただ、今までの習慣をがらりと変えてしまったため、農閑期を無視したスケジュールが組まれることになり、混乱も少なからず招きました。
そのため、太陰暦時代のお盆の時期に行事を行う月遅れ盆が、旧盆として今も続いています。
「初盆」は特別なもの
新盆は、旧盆と対比されて語られるものですが、似たような名称に「初盆」があります。
実際のところ、新盆と初盆は、地域によっては同じ意味で用いられることもあります。
しかし、初盆の正しい意味は「その家で初めて亡くなった人が出た年のお盆」を指しており、この点を誤解しないよう注意が必要です。
初盆では、次年以降のお盆とは違うルールがあります。
白提灯を用意して故人が自宅まで迷わないようにする・迎え火と送り火の準備・僧侶を招いてのお墓参りと法要など、こと細かいものです。
親族や友人を招待したり、お坊さんにお布施を包んだりと、何かと仰々しくなってしまいますが、これも故人の気持ちを考えてのことです。
新盆・初盆という単語には、時期の他にも違いがあると覚えておきましょう。
お盆の迎え火・送り火について
先ほど、初盆で迎え火・送り火を行うとご説明しました。
しかし本来は、回数や状況に限らず、お盆であればできるだけ行った方がよい習慣です。
迎え火・送り火は、故人の魂も含むご先祖様の霊をお呼びするための、大切な儀式です。
信号・灯篭のような意味合いを持っているため、火を焚ける環境ではない場合を除き、明るい灯を用意しておきたいところです。
迎え火は、ご先祖様をお迎えする神聖な火
迎え火は、お盆の始まりとなる13日の夕方に、家の門前・玄関前などで焚く日のことです。
正式なやり方としては、焙烙(ほうろく)と呼ばれる皿の上に、苧殻(おがら)を折って重ねた後で火をつけます。
苧殻を使う理由は、素材の麻が清浄な植物として扱われていることに由来します。
麻から皮をはいだ芯の部分を苧殻と呼び、これに火を焚くことで清浄な空間を作るものとされ、迎え火に用いられています。
火種は本来、墓地にお墓参りをしてからもらうものですが、現代ではお墓と家との距離が遠いこともあって、このような形で火種を作ることはまれです。
ちなみに、初盆の場合は白提灯に火を灯すため、迎え火を移すのが原則です。
苧殻が全て燃え、火が消えた段階で迎え火は終了となります。
送り火は、ご先祖様をお見送りするために焚く
送り火は、お盆の最終日となる16日の夕方に用意します。
焚く場所や材料は迎え火と同じで、家の門前・玄関前で焚きます。
お盆の期間、家にお越しいただいたご先祖様にお帰りいただくため、火を灯します。
お盆の終わりを告げるイベントのため、地域・町ぐるみで送り火を行うところも見られます。
初盆の家では、故人を招くのに使った白提灯を、このタイミングで燃やします。
お別れの気持ちを込めて、また来年も無病息災でいられるよう、祈りを込めます。
集合住宅などでは注意が必要
送り火・迎え火は火を扱うため、どうしてもスペースがなければできません。
一軒家ならまだしも、外に面した共有スペースが限られている集合住宅では、あえて火を焚く必要はありません。
もし、どうしても火を焚きたいのなら、LEDの灯りを使ったり、火の代わりに風鈴を飾って空気を清浄化したりするなどの工夫が必要です。
白提灯も、無理をして火をつけずに、バルコニーや玄関につるす程度でよいでしょう。
仮に、火を焚けるスペースが十分にあったとしても、集合住宅で煙を出すと、火事を疑われる場合があります。
一部地域では鬼灯(ほおずき)を飾り、その中にランプを入れて明かりを灯すところもありますから、ベランダなどに飾る際の参考にしましょう。
お盆にまつわる各種イベント
お盆は全国各地で行われる仏事であるため、地域や町・市区町村を挙げて取り組んでいるイベントも数多く存在しています。
日本人なら誰でも知っているイベントから、地域独特の大々的なものまで、その内容は実に幅広いものがあります。
全国各地で行われる盆踊り
盆踊りは、日本全国どの地域でも日常的に行われています。
やぐらの上で太鼓・三味線などが鳴る中、浴衣を着た老若男女が輪になって踊るという、よく見る夏の風景の一つです。
本来は、お盆に現世に戻ってきた祖先の霊を歓迎し、また送り出すために行われた「念仏踊り」としての性質が強いものでした。
できるだけ多くの人が参加できるよう、振り付けが簡単になっていることも特徴的です。
お盆の時期、出店などでお面が売られていたり、頬かむりで顔を隠して踊る人を見かけたりしますが、これは死者の霊に扮して供養する意味合いがあります。
キツネのお面・ひょっとこなどが有名で、主催する団体によっては、動物愛護などをコンセプトにして動物のお面をかぶるイベントもあるようです。
現代では、盆踊り用の曲がCD・カセットテープなどに録音されており、それを流しながら踊ることが多く見られます。
東京なら東京音頭・新潟なら佐渡おけさ、愛知や岐阜では有名なJ-POPなど、地域ごとに特色もあります。
ちなみに、日本のみならず世界中から観光客が集まる、徳島の阿波踊りも盆踊りの一種です。
三味線・太鼓・笛の音に合わせて、人々が一糸乱れず踊り続ける様は、まるで死者が光を求めて踊り狂う百鬼夜行のような、狂気に似た美しさがあります。
関西で見られる大文字
主に京都・奈良などの関西地方で行われるお盆の文化としては、大文字があります。
観光としても有名なのは、8月16日に行われる、京都の大文字五山送り火でしょう。
京都の山々に、文字や船形・鳥居の形をした火が灯り、それぞれがおよそ30分にわたって燃え続けます。
特に有名なのが東山の如意ケ嶽で、大文字山として知られています。
仏教の祈祷で用いる護摩木に、自分の名前と病名を書き、火床の割木の上にのせて焼くことで、自分の病気が治るという言い伝えがあります。
消炭を持ち帰り服用すると、持病が治るとも言われています。
また、奈良でも大文字の送り火があります。
こちらは8月15日の終戦記念日に、戦争で犠牲になった人々の魂をなぐさめる目的で行われます。
長崎の「精霊流し」
江戸時代から海外とのつながりがあり、独自の文化を色濃く残す長崎では、精霊流しが有名です。
わらを船のような形に束ねた菰(こも)に供物を包んで、流し場と呼ばれる供物置き場まで持って行きます。
初盆では「精霊船」と呼ばれる山車を使い、故人の位牌などを乗せてから提灯・花で飾り、流し場まで運びます。
ひたすら爆竹を鳴らしながら大きな船型の山車を持ち運ぶ姿は、日本のものとは思えない騒々しさです。
かつては、菰も精霊船も海に流していましたが、現在では長崎市で禁止されています。
しかし、実際に水の上に浮かべる地域もあり、川の中で精霊船を燃やすところもあるようです。
この記事のまとめ
以上、お盆の基礎知識として、時期や期間・迎え火・送り火などについてご紹介してきました。
お盆の行事は主に7月・8月に行われ、地域によって開始時期が異なります。
迎え火と送り火は、初盆の時期はもちろん、可能であれば毎年のお盆に行うことが原則です。
地域ごとに特色あるイベントがあり、盆踊り一つとっても違いがあります。
しかし、ご先祖様や故人をお招きするという意向は共通していますから、死後の安寧を祈りつつも、楽しく取り組みたいものですね。