遺言書を自宅保管か法務局保管で迷う方必見!
法務局で遺言書を保管してもらうメリットとデメリット

  • 2024.08.28

相続・遺言

遺言書の形式には、主に自筆証書遺言と公正証書遺言があり、手軽な自筆証書遺言は多くの人に選ばれています。
しかし、遺言書に対する無知や家族・親族の考え方の違いなどから、遺言書の紛失・廃棄・改ざん・紛争など、遺言書に関する問題が少なからず発生していました。

2020年7月10日から始まった自筆証書遺言保管制度は、そんな問題に対し、一つの解決策を提案する結果となりました。
自筆証書遺言の形式を法務局がチェックし、問題ないものは保管してくれるという新しいサービスによって、今後自筆証書遺言を選択する人は増えるものと予想されます。

ただ、始まって間もないサービスということもあり、遺言書に詳しくない人にとっては、なかなかメリット・デメリットが見えにくい一面もあります。
そこで、この記事では、法務局に遺言書を保管してもらうことで生まれるメリット・デメリットについてご紹介します。

法務局で遺言書を保管してもらえるメリット

もし、法務局で遺言書を任せることができたら、自宅で保管するよりも安全な状態で遺言書を保管できるでしょう。
以下に、自筆証書遺言保管制度を利用する主なメリットをご紹介します。

公的機関に安心して遺言書を任せられる

自宅で遺言書を保管する場合、作成してから時間が経過していると、どこにしまったのかを忘れてしまいがちです。

何度かの引越しによって存在自体を忘れてしまうケースもありますから、作成後は自分が絶対に忘れないような場所を探して保管しなければなりません。

しかし、時間が経過するにつれて不要な記憶は頭の中から消えていくものなので、掃除や断捨離によって遺言書をシュレッダーにかけてしまったり、自宅を処分して施設に入る際に紛失してしまったりと、遺言書を長期にわたり保管するには、いくつものトラップをくぐり抜けなければなりません。

その点、保管制度を活用すれば、法務局が遺言者の代わりに遺言書を預かってくれますから、自分の生活の変化に伴う忘失・紛失を防ぐことができます。

民間企業・事業団体とは異なり、倒産や解体の心配が少ないことから、安心感はとても大きいものがあるでしょう。

家族の干渉・改ざんを避けられる

自筆証書遺言は、パソコンでのタイピングではなく、あくまでも自分の字で遺言書をまとめなければならないというルールがあります。

遺言者の字で書いていることが前提ですから、当然ながら文字に違和感があった場合、遺言書は無効になる可能性があります。

にもかかわらず、残念ながら改ざんを試みようとする家族も少なくありません。
ある程度まとまった遺産がある家の中には、一部の家族が遺産相続で優位に立つために、遺言書をあさって改ざんする例が見られます。

また、遺言書を書いたことを親しい家族に伝えると、その内容に対する干渉を始める家族が出てくることもあります。

自分の死後、家族の間でトラブルを起こさないように作成する遺言書が、結果的にトラブルに発展するおそれがある点で、自筆証書遺言は一定のリスクがありました。

しかし、遺言書を保管所に保管して遺言の詳細を詳しく語らなければ、改ざんはできなくなりますし、干渉しようにも詳細が分かりません。結果として、家族をはじめとする相続人間の争いが減少することが予想されます。

検認を必要としない

自筆証書遺言の有効性は、家庭裁判所で「検認」の手続きを経ることで得られます。
しかし、検認には1~2ヶ月程度の時間を要し、手続きを法律のプロに代行してもらうと万単位のお金が発生します。

自筆証書遺言保管制度を利用すれば、自筆証書遺言を保管する段階で、所定の形式を満たしているかどうかを判断してくれます。

そのため、検認が不要となり、相続人にかかる負担が軽くなります。

サービスの利用料が安い

自筆証書遺言保管制度は、遺言書の保管だけでなく、閲覧や撤回・住所等の変更手続きもできます。そのため、一度遺言書を保管してから、事情により内容を撤回するようなことがあっても、所定の手続きを踏めばスムーズに対応できます。

保管にかかる費用は、遺言書1通につき3,900円となっています。
また、遺言書を画像で閲覧する場合は1,400円、原本を閲覧する場合は1,700円となっていて、総じて費用が安いことも注目すべきポイントです。

もし、信託銀行や貸金庫を利用した場合、保管のために支払う費用はもっと大きくなります。自宅で保管するのは不安だけれど、信用できる場所で遺言書を保管したいと考えている人にとっては、メリットの大きい方法と言えるでしょう。

法務局で遺言書を保管してもらうデメリット

自筆証書遺言保管制度を利用するメリットは多く、基本的に利用者の制限はありません。

しかし、万人に向いている制度かどうかは疑問が残るため、利用する前に以下のデメリットについても検討してみましょう。

詳しい中身についてチェックは入らない

保管制度のメリットの中で、制度を利用すれば検認の必要はないことをお伝えしました。しかし、これは中身を一通り確認して、遺言書が「遺言者の目的を達成する完璧なもの」であることを証明しているわけではありません。

例えば、自分の希望通りの遺言書を作成したとして、その内容が素人目に見ても一部の家族をひいきしているような内容になっていたとしても、法務局がその点を指摘したり、より良い表現に書き直したりすることはありません。

法務局側では、自筆証書遺言の法的効力だけを審査するため、手書き・署名・捺印・日付などのポイントをチェックするにとどまります。

遺言書を納得のいく形でまとめるためには、自分が表現方法を工夫するか、専門家の意見を聞きながらまとめていくしかありません。

その過程で料金が発生することも十分考えられますから、法務局だけを頼っていれば問題ないとは考えないようにしましょう。

保管制度は基本的に遺言者のみが利用できる

遺言者が亡くなった場合を除いて、保管制度を利用できるのは、原則として遺言者のみです。保管申請は、遺言者自身が法務局に足を運び、本人確認を経て手続きが進められます。

また、本人確認に必要な身分証明書は、顔写真付きのものでなければなりません。
具体的には、マイナンバーカード・運転免許証・運転経歴証明書・パスポート・乗員手帳・在留カード・特別永住者証明書などが該当します。

仮に、保険証・年金手帳以外の身分証明書を持っていなかった場合、マイナンバーカードの申請が必要です。

余命わずかであることが分かっていて、急ぎで遺言書を用意しなければならない場合は、できるだけ専門家の力を借りることをおすすめします。

管轄に注意

保管申請を依頼する法務局を選ぶ場合、以下のいずれかを選択しなければなりません。

  • 遺言書の住所地を管轄する遺言書保管所
  • 遺言者の本籍地を管轄する遺言書保管所
  • 遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所

少々ややこしいのですが、最寄りの法務局で保管申請ができるとは限らず、該当する保管所を確認しなければなりません。
遺言書保管所管轄一覧をチェックして、どこに行けばよいのかを確認することが必要です。

※参考URL
http://www.moj.go.jp/content/001319026.pdf

生活環境の変化に伴う変更届も必要

一度遺言書を保管してもらったとしても、その後生活の拠点が移ったり、結婚するなどして名字が変わったりすると、遺言書保管所に登録した氏名・住所の情報も更新しなければなりません。

市役所を訪れたり、職場や運転免許証等の書き換えなどを行ったりする中で、遺言書保管所にも足を運ぶことになります。

マイホームを購入し、定年まで勤めあげることを考えている状況以外では、頻繁に情報を変更する手間が発生するおそれがあります。

早いうちに遺言書を作成することは大切ですが、あまりに早い時期に用意すると、かえって面倒事が増えるかもしれません。

自分で書くべきか、それともプロに頼むべきか

自分自身にある程度の知識があるなら、遺言書を自分で作成することも検討して差し支えないでしょう。

しかし、勉強する時間がない・細かい部分はプロのアドバイスを受けたいと考えている人は、司法書士や弁護士に依頼するかもしれません。

方向性として、自筆証書遺言保管制度を利用してもメリットを享受できる人と、最初からプロに任せてしまった方がよい人の2種類が考えられます。
続いては、それぞれのケースについてご紹介します。

自筆証書遺言保管制度を利用した方がよい人

自筆証書遺言保管制度を使って、遺言書の作成・保管を行った方がよい人の特徴としては、以下のような点があげられます。

  • 遺言書にまとめたい内容が決まっている人
  • 相続財産がそれほど多くない人
  • 相続人が少数である人
  • 添削をすでに受けている遺言書がある人
  • 相続トラブルの発生リスクが低い人

実際に遺言書が開封された後、問題なく遺産相続が進む確率が高い人は、自筆証書遺言保管制度を利用するとより安心できるはずです。

もちろん、家族の目に極力遺言書が触れないようにするために、遺言書を自宅以外の場所に保管する場合も有効です。

法律のプロに依頼した方がよい人

自筆証書遺言保管制度を使わず、弁護士や司法書士を介して最善の選択をすべき人の特徴には、主に以下のようなものがあげられます。

  • 遺産内容が複雑な人
  • 法定相続人が多い人
  • 遺言書による遺贈や認知が必要な人
  • 家族や親族間の仲が悪い人
  • 環境の変化が比較的激しい人
  • 相続トラブルの発生リスクが高い人

遺言書の内容が上手くまとめられない状況になっていたり、そもそも遺言書だけでトラブルの発生を抑制することが難しかったりする人は、自分の望む形で遺産相続ができるよう、プロに依頼した方がスムーズでしょう。

状況によっては、間に立って交渉してもらう弁護士を探す必要があるかもしれません。

また、仕事の都合上転勤が多いなど、居住環境が変化する機会が多い場合も、手続きが煩雑になってしまうでしょう。その場合は、落ち着いた環境で生活できるようになってから、保管制度の利用を検討した方がよいのかもしれません。

この記事のまとめ

遺言書を法務局に保管してもらえるのは、自宅で保管するのに比べると、遺言者にとってはメリットが大きいものです。しかし、遺言者の生活も日々変わっていく中で、必要に応じて手続きを行うことに馴染まないケースも出てくるでしょう。

遺言は、できるだけ元気なうちに作成しておきたいものですが、急いでもよいことはありません。

自分の死期を見据える生活の余裕ができた時に、メリット・デメリットを検討した上で、保管制度を利用するかどうかを考えてみることをおすすめします。

  • 公開日:2024.08.28

テーマ:相続・遺言

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